【感想】いいだ、なむ『ゲームさんぽ 専門家と歩くゲームの世界』

*この記事にはアフィリエイトリンクなどのプロモーションが含まれています。

その他

この本について

書誌情報

タイトルゲームさんぽ 専門家と歩くゲームの世界
著者いいだ、なむ
出版社白夜書房
発売日2022年3月18日
ページ数336

あらすじ

各分野の専門家ゲストと共にゲームの世界を独自の視点から楽しむ、YouTubeの人気ゲーム実況シリーズ「ゲームさんぽ」。そのシリーズが始まったきっかけや狙い、そしてゲームで遊ぶことの意義などが深く語られている。動画に登場した専門家ゲストも交えて、ゲームについて多面的な角度から考える本。
章立ては下記の通り。

第1章 ゲームさんぽの誕生
第2章 ゲームの世界の「体験」
第3章 ゲームと人間社会
終章  ゲームと学び

感想

本を手にしたきっかけ

本の存在を知ったのは確かXのポストでした。装丁に言及する内容で肝心の中身のことはわからなかったものの、ゲームも実況動画も好きだから気になるなーと読みたい本リストに入れていました。

それと、あらすじに書いた通り10人の専門家ゲストがそれぞれ自身の生業やゲームについて語っています。この専門家の中に精神科医の名越先生の名前があったことも興味を持った理由の一つです。

ゲームさんぽの動画は知らなかった私ですが、名越先生のゲーム実況動画は見たことがありました。ゲームタイトルは『ドキドキ文芸部!』。ドキ文への色々な人の反応が知りたくて動画を漁っていた時に出合い、精神科医の先生の反応はぜひ見たいと思って視聴したのでした。

これは今考えてみると、「「専門家の目で見たゲームの世界はどう見えるのか」を楽しむ(p.9)」というゲームさんぽの企画趣旨にピッタリ合致するような探し方をしていたわけですね。

ちなみに名越先生のドキ文動画はすごかったです。詩の解釈の辺りは感心を通り越して感動しました。ドキ文動画を開拓したい方にはおすすめ。刺激的なゲームなので、内容を全く知らない方は動画の注意書きをよく読んでから視聴してください。

開始3分で立ち絵を見る前に見抜く【01】精神科医が分析する『ドキドキ文芸部』(YouTubeに飛びます)

大まかな全体の流れと内容

第1章では発案者のなむさん、編集者のいいださんを中心に、章タイトルの通りゲームさんぽ誕生の経緯が語られている他、さんぽ的な楽しみ方をしてきた歴史上の人物に関するコラムなども載っています。

第2~3章では各分野の専門家ゲストと、ゲームの存在意義や遊ぶことの価値、はたまた社会的な位置付けや付き合い方についてまで、幅広い話し合いが見られます。合間には、ゲーム業界で活躍するCGアーティストへのインタビューや早稲田大学のメディア授業の議事録も載せられていて、ゲームを中心様々な視点がたっぷり詰め込まれているボリューム感は知的好奇心が大いに満たされました。

脚注も充実していて、もはやコラムレベルの長文もありましたが、細かな部分にもこだわって少しでも情報を届けようとする熱意が伝わります。これについては、「どんなに小さな仕事であっても、必ずどこかに、それをおもしろがってくれる誰かがいる。(p.11)」とありました。忘れずに意識し続けたい名言ですね。

ゲームの見方の変化が起こす化学反応

どういう専門家がどんなことを語っているのか、少し紹介します。

例えば建築史家と景観デザインの専門家2人が参加している第2章の④。私が面白いなと思ったのは、我々が見ている建築は単純なモノではなく、誰々という建築家が作った何々様式の~といった情報ではないかという話です。その見方が悪いわけではないけれども、情報のフィルターは建築を純粋に見る上では邪魔になります。一方ゲーム中の建築は、現実世界の文化を背負っていないだけに、単純なモノとして見るとはどういうことかを思い出させてくれると、そんな内容でした。

私は昨今のゲームをあまりプレイしていないのもあって、リアルな建築に感動するようなゲーム体験の記憶がないのですが、仮にあったとしてもそこまで建築に注目はしなかったろうと思います。

考えてみれば、例えばかの有名なオープンワールドゲーム『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』では、とりあえず山に登って夕焼けを眺めたり理由もなく馬で駆けてみたりすることもありましたが、基本的には目的ありきで行動していました。私にとってのゲームは、クリアの達成感を味わうか、あるいはストーリーを楽しむか、そのどちらかを満たすためのツールという感じでした。

しかしゲームさんぽで重視されるのはそこではありません。建築であったり星空であったり、あるいはゲーム中の犯罪行為にまつわる法律の話だったり。ゲームの本筋とは全く関係のない世界が広がっていて、そんな楽しみ方があったのかと、まさに蒙を啓かれた気分です。

世界の見方が変わった、と感じる。ゲームさんぽのおもしろさを特徴づけるのはこの、私たち自身の”世界観”が変化する経験にほかならない。

いいだ、なむ『ゲームさんぽ 専門家と歩くゲームの世界』p.10

この本はさんぽ動画を見ていなくても色々な発見があって楽しいと思いますが、やはり実際にゲームをプレイしている人の方が響く部分は多いでしょう。

まとめ

知識を上から下に垂直伝達するものではなく、学びの初期衝動である「気づきや発見の喜び」が体感的、主体的に感じられるものを自分は求めていました。それは小説や映画、音楽のように感情を揺さぶり、価値観の転換を促すようなものでなければいけません。

いいだ、なむ『ゲームさんぽ 専門家と歩くゲームの世界』p.309

ゲームさんぽの動画は、ゲーム実況というエンタメコンテンツであると同時に教養コンテンツでもあります。人の学びのスイッチを押すための仕掛けも考えた上で動画作りを行っていると、終章では語られていました。

さんぽ動画を見たことのない私が言うのも変ですが、その試みは成功しているのではないかと感じます。動画で実況者が自分にはない知識や発想を披露しているのを見ると、「すごい!私もそんなことが言えるようになりたい!」と思うものです。仕掛け以前に、専門家ゲストを呼んでゲームを楽しむという企画の時点で、「「学びの初期衝動」の回復をする(p.319)」という目的はある程度果たされている気がします。個人的には、ですが。

最近は、ゲームをやり過ぎると現実との境目がわからなくなって云々といったゲーム批判を聞かなくなりました。ゲーム実況を行っている芸能人も多いのでメディア的にゲームを悪者にしにくくなったのかな、などと考えています。ただ、ゲームが一般に受け入れられている空気があるとはいえ、ゲームは学びの文脈でも捉えられるという発想はまだそこまで広まっていないように感じます。

ゲームを教育に取り入れるべき!とまでは言いませんが、単純に楽しむだけだったゲームや動画から学びの道が繋がることは、自分の世界を自然に広げるためにも良い現象だろうなと思います。私がもし親で子供に見せるなら、ゲームさんぽのような動画を勧めたいですね。

ゲームさんぽのチャンネルについて

本で言及されているゲームさんぽのチャンネルは、こちらの『ライブドアニュース』です。本が発売された後の2023年に動きがあって、チャンネル名からゲームさんぽの名称が削除されてしまったとのこと。

それから間もなくいいださん、マスダさんといったメンバーがライブドアを退社。新たに立ち上げられたチャンネルが『ゲームさんぽ /よそ見』です。ライブドアニュースの方でも後任社員がさんぽ動画のアップを続けているそうで、少々ややこしい感じになっています。

いいださんたち主導のさんぽ動画が見たいのであれば、2023年2月頃までの動画はライブドアニュースで、それ以降の動画はゲームさんぽ/よそ見で、となります。

タイトルとURLをコピーしました