【感想】末永幸歩『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』

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この本について

書誌情報

タイトル「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考
著者末永幸歩
出版社ダイヤモンド社
発売日2020年2月20日
ページ数344

あらすじ

「こんな授業が受けたかった! 」「この美術、おもしろすぎる…!!」
700人超の中高生たちを熱狂させ、大人たちも心から感動する「美術」の授業!!
20世紀アートを代表する6作品で「アーティストのように考える方法」がわかる!

中高生向けの「美術」の授業をベースに、
– 「自分だけのものの見方」で世界を見つめ、
– 「自分なりの答え」を生み出し、
– それによって「新たな問い」を生み出す
という、いわゆる「アート思考」のプロセスをわかりやすく解説した一冊。

「自分だけの視点」で物事を見て、「自分なりの答え」をつくりだす考え方を身につけよう!

章立ては下記の通り。

PROLOGUE 「あなただけのかえる」の見つけ方
ORIENTATION アート思考ってなんだろう――「アートという植物」
CLASS 01 「すばらしい作品」ってどんなもの?――アート思考の幕開け
CLASS 02 「リアルさ」ってなんだ?――目に映る世界の”ウソ”
CLASS 03 アート作品の「見方」とは?――想像力をかき立てるもの
CLASS 04 アートの「常識」ってどんなもの?――「視覚」から「思考」へ
CLASS 05 私たちの目には「なに」が見えている?――「窓」から「床」へ
CLASS 06 アートってなんだ?――アート思考の極致
EPILOGUE 「愛すること」がある人のアート思考

感想

アートの楽しみ方からアート思考まで

アート作品を見るのは嫌いではなく、美術館にも興味のある展示会などがあれば足を運ぶものの、身に付いている知識は特にない…。そんな調子の私がアートを楽しむにはどうすれば良いのか知りたいと思い、この本を手に取りました。

いま思えば、「鑑賞」のためというよりも、作品情報と実物を照らし合わせる「確認作業」のために美術館に行っていたようなものです。
(中略)
「自分なりのものの見方・考え方」などとはほど遠いところで、物事の表面だけを撫でてわかった気になり、大事なことを素通りしてしまっている――そんな人が大半なのではないかと思います。

末永幸歩『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』p.5

確認作業と言われるとまさにその通りです。作品情報を見ずに絵だけ見て何か感じようと思ったこともありましたが、恥ずかしながら「綺麗だな」「筆遣いが好きだな」程度の感想しか出ず、20世紀以降の作品になると「わからない」としか言いようがなく、結局作品情報を確認してしまっていました。そして、そこでなんとなく納得した気分になっても、次の日には何も残っていないという…。

この本の中では、自分のものの見方を持てる人こそが成功していて、そうでない人は一体何を生み出せるのか?と言っています。変動の激しい現代社会においてはなおのこと、自分のものの見方を持つべきだと。こうした背景から、昨今では大人にもアート的なものの考え方、いわゆる「アート思考」が注目され始めていて、タイトルには13歳からとあるものの、むしろ「大人の方にこそ(中略)「美術」の本当の面白さを体験してほしい(p.15)」とありました。

アート思考とは「自分の内側にある興味をもとに自分のものの見方で世界をとらえ、自分なりの探求をし続けること」だといえるでしょう。

末永幸歩『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』p.39

私としてはただ純粋にアートの楽しみ方を知りたかっただけなので、それを応用して自分の人生を豊かにしよう的な考えはなかったのですが、これはどちらのタイプの人にとっても参考になる本だったと思います。

今まで持っていたアートへの見方が変わる

本の中では六つのクラスを通じて、自分がアートに対してどういう見方をしているのか実感した上で、20世紀アートがどのように生まれてきたのか、そこから自分の見方はどう変化するのか、といったことを考えていきます。順番に読み進めることで納得感が増していくので、ここであまり詳しく紹介することは避けたいと思います。

印象的だったのは、クラス2「「リアルさ」ってなんだ?――目に映る世界の”ウソ”」のパートです。取り上げられている題材がパブロ・ピカソの作品というのがまたイメージしやすいというか、「わからない」と思うばかりだった作品の代表格がピカソなので、逆に他のどのクラスの作品よりも身近に感じながら読み進められました。

ピカソの1907年の作品である『アビニヨンの娘たち』は、発表された当時は酷い絵だと非難されたそうです。それが今となっては名作と評価されています。その理由として、遠近法などの表現方法が俎上に載せられていました。

生まれた時から遠近法で表現されたものに囲まれて育っている現代人は、遠近法に従って描かれた絵を見たとき、当然のように「これはリアルだ」と感じるのです。

末永幸歩『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』p.113

無意識の内に遠近法を絶対視していた自分に気付いて、目から鱗が落ちる気分でした。

そもそものリアルさについては、クラス1「「すばらしい作品」ってどんなもの?――アート思考の幕開け」でも触れられています。上手にリアルに描けているものこそがすばらしい作品なのか?と。このクラスの最後に紹介されている参加者の声で、「私のなかの『すばらしい』の基準が広がったような気がします(p.96)」とありました。私も同じで、すばらしいの基準が広がった今なら美術館での鑑賞も以前より楽しめるのではないかとワクワクしています。

まとめ

「アート作品の鑑賞には『教養』が必要だ」
(中略)
著者も指摘しているとおり、この考え自体は決して間違いではない。アートの歴史とは、人々が各時代の常識を打ち破ってきた過程であり、作品単独で味わうよりも、その背景知識を踏まえたほうが奥深い鑑賞ができる。
しかし、(中略)「教養としてのアートを身につけよう!」といった掛け声に象徴されるアートブームは、アート思考の実践者(=アーティスト)を生み出すどころか、かえって「正解」を求める評論家を再生産することになるだろう。

末永幸歩『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』p.332(佐宗邦威「”大人の読者”のための解説」)

この本も、アートの背景知識が全く紹介されていないわけではありません。むしろ20世紀アートが生まれてきた変遷がわかりやすく解説されていると感じました。ただ、その知識を教養として身に付けておくだけでOKとなると、自分のものの見方は持てないし、応用も利きません。

私も昔から発想力に乏しい人間だったという自負があるのですが、それは知識さえあれば良いと思い込み、自分のものの見方を持つことを全くしてこなかったからだと思います。本の流れを追うことで、自分なりに考えることの一端は感じられた気がしました。それでも昔から培ってきた思考の癖はしつこく存在していて、ともすれば知識を求めてしまいそうになります。

そう考えると、大人でも面白い体験ができる本とはいえ、やはりタイトルの通り13歳頃からこのアート思考を体験して身に付けておいた方が良いだろうと思いました。実際にこういう授業を受けられたらなお良いですね。

とりあえず私は美術館に行く前にこの本を読み直して、学んだことが実践できるかどうか試してみたいです。

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