【感想】岡真理『ガザとは何か パレスチナを知るための緊急講義』

*この記事にはアフィリエイトリンクなどのプロモーションが含まれています。

その他

この本について

書誌情報

タイトルガザとは何か パレスチナを知るための緊急講義
著者岡真理
出版社大和書房
発売日2023年12月24日
ページ数208

あらすじ

2023年10月7日、ハマス主導のパレスチナ人戦闘員によるイスラエル越境攻撃に対して、イスラエルはジェノサイド攻撃を開始。ガザでも死者数が増え続ける中、10月20日に京都大学、10月23日に早稲田大学で開催されたガザに関する緊急講演の内容をまとめた1冊。

感想

パレスチナ問題は難しくない

私はパレスチナ問題に関して全くの無知でした。それ以前に海外の情勢にも疎く、この問題についても歴史的な背景があって難しそうだと勝手に思い込んでいたのです。

そんな中でこの本が話題になっているのを見かけ、帯の「パレスチナ問題は決して”難しく”ない」という文章に惹かれて手に取りました。

読み終えてみると、確かに難しくありませんでした。元々が講演の内容だからか、使われる言葉も平易なもので、むしろ非常にわかりやすかったです。

もちろん、この本だけで全てを知れたとは思えません。更に深く知ろうとすれば、より難しい内容も出てくるとは思います。ただ、パレスチナ問題が難しそうという偏見を取り除けたというだけでも、意義のあることだったと感じます。

歴史的文脈をカットした報道

パレスチナ問題に関するニュースを見たことはあったはずなのですが、正直なところ、記憶に何も残っていません。今パレスチナではこういうことが起きていると言われても、歴史的文脈を知らず理解できなかったから、というのが大きいと思います。報道の扱いも小さいので、理解できなくてもそのままスルーしてしまっていました。今となっては反省しています。

主流メディアの報道を見ていると、この出来事 (注:10月7日の攻撃) を、「なぜそのような出来事が今、起きているのか」「そこにはどのような歴史的背景があるのか」といった歴史的文脈から切断して、(中略)出来事の、非常に限定的な一部分のみにスポットを当てて、それを「暴力の連鎖」「憎しみの連鎖」といった言葉でまとめています。

岡真理『ガザとは何か パレスチナを知るための緊急講義』p.151

著者は、知らないのに調べもしていない、あるいは知っているけれども隠したい、メディアの姿勢はこのどちらかだと言っています。

報道の度に歴史的文脈を説明するのは難しいかもしれませんが、特集番組などでこの問題に触れる機会が増えてほしいと思います。そもそも世界情勢に関する報道が少なくないかと感じているのですが、どうなのでしょう。

反イスラエルの態度を明確に示すこと

著者の主張を22~26ページからまとめると以下の通りです。

  • イスラエルは入植者による植民地国家であり、パレスチナ人に対するアパルトヘイト国家である
  • ガザで起きていることはジェノサイドに他ならず、それを報じないメディアはジェノサイドに加担している
  • 国際法違反、安保理決議違反、戦争犯罪を続けているイスラエルが、国際社会によって裁かれていないのは大問題

この本は全体を通して、反イスラエルの態度で一貫しています。ただ、元々のイスラエル人はホロコーストから生還した難民であり、パレスチナの分割案は国連総会で採択されたことなどの歴史を考えると、なんとも言えない気持ちになります。分割案採択後の1948年には既に民族浄化が行われており、それは間違いなく批判されるべきことだと思うのですが。

一方のハマスによる10月7日の奇襲攻撃は、占領軍に対する抵抗ということで、国際法上認められている抵抗権の行使に他ならないとあります。ただし、民間人を襲撃して人質にとる作戦という、認めてはならない話も出ていました。著者は、ハマスの犯罪行為については裁かれなければならないとしつつ、彼らを残虐なテロリスト扱いするのはおかしいと主張しています。

本の中では繰り返し、パレスチナ問題は「暴力の連鎖」や「憎しみの連鎖」ではないと語られています。どっちもどっちの話ではない、態度を保留してはならないと。確かに、中立な立場から書かれたものを読んでいたら、判断するのは難しいな、で終わっていたかもしれません。そういう意味で、反イスラエルの立場を明確にしている内容は、わかりやすく、こちらの態度も定めやすいと思いました。

この状況の中で「中立」などと言うのは、虐殺している側に加担していることになると私は思います。

岡真理『ガザとは何か パレスチナを知るための緊急講義』p.185

まとめ

「生きながらの死」を強いられているというガザ。完全封鎖の状況なども語られているので、自分なりに想像しながら読んだのですが、その想像すら生易しいものなのだろうと思います。

そしてそのガザについては、大きな事件が起きれば報道はされるものの、停戦期間などで報道も何もなければ、中々人の意識に上ってくることはありません。恥ずかしい話ですが、少なくとも私はそうでした。

メディアも市民社会も、攻撃が続いて建物が破壊され、人が大量に殺されている時だけ注目して、連日報道し、でも、ひとたび停戦すれば忘れてしまう。ガザの人々の生を圧殺する封鎖は、依然続いているにもかかわらず。

岡真理『ガザとは何か パレスチナを知るための緊急講義』p.133

では忘れずにいたとして、それから何をすれば良いのか。質疑応答のページで、私たちにできることは何かという質問への回答がありました。

もっとも基本的なことは、やっぱり正しく知ることです。まずは正しく知る。それから、周りの人にそれを知らせる。どんな形でもいいです。

岡真理『ガザとは何か パレスチナを知るための緊急講義』p.185

巻末には、もっと知るためのガイドとして、関連する書籍、映像作品、情報サイトなどの一覧が載っています。

この本を読んだことで、基本的な知識を得ることはできたように思います。ここから更に深めていき、例えばニュースでパレスチナ問題が取り上げられた時に、「これは実はこういう背景があるんだよ」といったことを伝えられるようになりたいものです。

最後に、この本はあらすじでも書いた通り、2023年10月の戦闘を受けて12月に緊急出版されたものです。速報性が重視されていることもあり、時間が経つほど説明されている内容との齟齬が生じてくる可能性があります。ただ、内容としては非常にわかりやすいので、その当時の状況であることを踏まえて読むのであれば、時間が経っていても問題ないとは思います。

私と同じように、パレスチナ問題を知りたいという気持ちはありながらも、難しそうという理由で知ることを避けていた方におすすめしたいです。

タイトルとURLをコピーしました