【感想】ホリー・ジャクソン『余命一週間の探偵として』【後半ネタバレ注意】

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小説

この本について

書誌情報

著者:ホリー・ジャクソン
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タイトル余命一週間の探偵として
著者ホリー・ジャクソン
翻訳者服部京子
出版社東京創元社
発売日2026年7月9日
ページ数632

あらすじ

わたしを殺した犯人を見つけるまで、
死ぬわけにはいかない。

全世界で著作累計1000万部!
『自由研究には向かない殺人』
の著者が放つ究極の犯人当てミステリ!

ハロウィーンの晩。27歳のジェットは、何者かに殴打されて意識不明となってしまう。2日後に目覚めたものの、医師によると、彼女の脳内には確実に動脈瘤が形成されると考えられ、いずれ破裂して死に至るという。手術はほぼ不可能。余命1週間を宣告されたジェットは死ぬまでに犯人を見つけると誓い、幼なじみのビリーと調べ始める。究極のタイムリミットに挑む犯人当てミステリ!

感想

1週間で起きる内面の変化に注目

偶然目にしたあらすじに惹かれて読みました。著者の作品に関しては、『自由研究には向かない殺人』の3部作を既に読んでいます。以降、そこと比較して話を進めるところもありますが、自由研究の方のネタバレはしないのであしからず。

まず単純にどちらが好きかという話から。私はこの余命一週間の方が好きでした。1週間というタイムリミットのお陰でスピード感があり、それが1冊にギュッとまとまっているのが良かったです。そしてミステリーとは関係のない青春小説的な部分における展開と結末もこちらの方が、という感じです。なので、3部作を読んだ人にこそ私はおすすめしたいと思います。

主人公のジェットは、何かを成し遂げたいと思いながらもそれができずにくすぶっている27歳の女性。気も強ければ他人への当たりも強く、序盤の印象はあまり良くないかもしれません。ただ、この気の強さがなければ犯人探しの展開にならなかったでしょう。ジェットに引っ張られていく内に彼女のことも理解できていきます。私は彼女の心境というか、人生に対する考え方が変化していくところが良いなと思いました。自由研究を読んだ人なら、ひとまずはピップ大人バージョンだとイメージしてもらえれば大体間違いありません。

見どころは隠された真実に向かう道中でのスリリングな展開と、それに伴うジェットの内面の変化、ビリーとの関係性の変化です。純粋なミステリー小説として読むと不要な会話も多く感じかねないので、青春小説として楽しむくらいの気持ちで読む方が満足度は高いと思います。

【ネタバレあり】登場人物たちの概観

私は自由研究のピップを知っているので、本作のジェットがどれだけ無茶苦茶しようと驚きはなかったわけですが、そもそも周りに難ありな人間が多くてジェットが比較的まともに見えてくるというのもありました。難あり筆頭はもちろんジャックとルークの二人です。この二人は難ありを通り越して怖いです。

ジャックは生まれた時から見知っていて息子の幼馴染だったジェットを殺意を持って殴りつけた時点で怖いですが、その後は捜査に乗り出したジェットに親切心や配慮を見せ、かつ間違いのない情報まで提供してくれていました。そこはビリーに語った通り後悔しての行動だったのかと思いきや、結局は自白するつもりもなければ、ルークのためにやったことだと自分を庇い続けるなど、とても後悔しているようには見えませんでした。この本人も気付いていなさそうな二面性が怖かったです。大体ジェット以前にビリーのことすら眼中になく、ひたすらダイアンとルークに執着しているのも…。

ルークは最初から嫌な奴で、会社に固執して違法行為にも手を染めており、ジェットがいるのをわかっていながらも放火して、更には姉を殺したことも隠していて…、これだけ揃えば最悪としか言いようがありませんが。とはいえ途中途中でジェットがルークを庇うような思考をしているところもあり、読者としてはよくわからないなと思っていたら、最後には妹のためにブチ切れてしまいました。あれはジェットの手紙が効いたのでしょうか?ただ、手紙を読む前にもルークは「死なないでほしいよ、おまえはおれの妹なんだから。毎日おまえを恋しく思うだろう。おまえなしでどうやって家族の絆を守ればいいかもわからない。(p.553)」と話しています。どこまで本気なのやらと流していましたが、こうなると本心だったのかもしれません。一方この時点ではまだ会社のことも自分の幸せのために気にしていて、ジェットの手紙でようやく会社への執着を手放せた結果が最後のシーンに繋がったのかもしれませんね。

二人とも怖いものの、そして言動が矛盾しているようにも見えるものの、私はむしろこの矛盾が人間臭くて良いとも感じました。もちろん小説の登場人物としてはですが。好きなんですよね、矛盾のあるキャラクター。

そしてこの二人は罰を受けた、あるいは受けるので良しとして、ダイアンとソフィアにもどうにかなってほしいと思うのは私の性格が悪いからでしょう。彼女たちもこの後の人生は大変でしょうが、不倫はともかく、薬の入れ替えは露見しなさそうなのが残念です。というか、薬の話は結局ルークに伝わったのでしょうか?「ルークにしゃべったでしょ!」とソフィアは激怒していましたが、ジェットはほのめかしただけで内容そのものを話してはおらず、ソフィアが進んで打ち明けたとも思えず…?

ダイアンについては色々あっても母なのでわかるとして、犬猿の仲となってしまったソフィアにまで一応手紙を書き残したジェットは偉い。私なら残しません。

ただしジェットも傍から見れば難ありというか、正直しばしば27歳であることを忘れました。良い意味ではなく悪い意味で。言動がティーンエージャーのように見えてしまうことが多かったです。自由研究のピップに似ているせいもあったと思いますが。そう考えると余命1週間の設定は絶妙でしたね。好き勝手な振る舞いも大目に見ようという気持ちがこちらにも生まれていました。あと、ジェットの成長を感じるために最初は幼くしておいた方が展開的に良かったのかもしれないと今にして思います。

【ネタバレあり】泣きポイントについて

先に手紙の話を出しましたが、あのくだりでは流石に泣きました。なんなら本作の泣きポイントになりそうなところでは大体泣いた気がします。私が好きなのは逮捕されてビリーに電話した時の独白です。死を目前にした1週間でようやく自分の人生を取り戻したと実感しているのが、一言で言えばエモかった…。

人生がはじまるのを、ほんとうの意味でスタートするのを長く待ちすぎたせいで、そもそも人生がどういうものか、見失ってしまったんだと思う。(中略)待っているあいだに見逃していたひとつひとつの小さな出来事こそが、人生そのものなんだとやっとわかった。いまになって、ようやく気づけた。

ホリー・ジャクソン『余命一週間の探偵として』p.529

今改めて手紙のページを読み返したところ、まだ泣けます。難ありな人間がどうとか、ダイアンとソフィアにもどうにかなってほしいとか書きましたが、許しても良いような気分になってきました。複雑。あれを読んだ両親はどう思ったのだろうなあ。特にダイアン。彼女の本心は最後まで全くわからなかったので気になりますね。

あとレジーですよ。愛犬家にとって犬より先に逝くなんてあってはならないことで、ジェットもそう思っていたであろうにこんな結末になってしまって…犬が死ぬ展開も辛いけれどもこの展開も辛い。いつかまたジェットが帰ってきてくれるかもと期待しながらレジーは待ち続けるのではないかと思うだけで泣けます。とにかくレジーは食べるのにも遊ぶのにも寝るのにも困らず幸せに暮らしてほしいです。

【ネタバレあり】まとめ

殺人事件の真相は明らかになったものの、ジェットは亡くなり、ビリーは一人になってしまいました。ただ、ジェットは「生きているといちばん実感できた日々」を過ごせて、ビリーは「愛されたいという気持ち、母が胸に残していった傷を癒したいという気持ち」を手放せて、やるせなさや切なさがありつつも二人の世界は綺麗に閉じたのがとても良かったです。ビリーは新たな一歩を踏み出せそうなのも。

ビタースイートエンドと言うのでしょうか。ジェットが手紙に書いていた通り、事件が起きなければビリーとの間に何も始まらなかったというのが切なくて良い!と私は声を大にして言いたいわけです。事件が起きなければ二人は一緒にいなかったけれども、事件が起きたからこそ二人は一緒にいられないという矛盾。矛盾のあるキャラクターが好きと書きましたが、また私の好きな矛盾が出てきてしまいました。好きなんですよね、この手の展開。

そんなことを書きつつも、中盤辺りまでは奇跡が起きてどうにか生き延びられないものかという考えが何度も脳裏をよぎったものです。ただ、そのエンドだと残念ながらここまで心に残らなかっただろうとも思うのでした。

というわけで、私はジェットが逮捕されてから結末までのところが特に好きなのですが、だからこそ人におすすめするのが難しいなと。熱を込めて語れるのは終盤なのに、終盤の内容はネタバレ配慮的に話せない!その結果がネタバレなし部分のふんわりな感想です。こういう時の上手い文章の書き方が知りたい、と関係のない話に飛んでいきそうなので終わります。

著者:ホリー・ジャクソン
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