この本について
書誌情報
タイトル | わが投資術 市場は誰に微笑むか |
著者 | 清原達郎 |
出版社 | 講談社 |
発売日 | 2024年3月1日 |
ページ数 | 320 |
あらすじ
2005年に公表が最後となった長者番付(高額納税者公示制度による発表)で、サラリーマンでありながら1位の座を獲得した投資家の清原達郎さん。運用していたファンドを閉じて引退するにあたり、株式投資やファンド運用のノウハウを世の中に「ぶちまけてしまえ」という気持ちで書かれた本。ファンド運用を考えている人だけではなく、個人投資家にも参考になる1冊。
章立ては下記の通り。
第1章 市場はあなたを見捨てない
第2章 ヘッジファンドへの長い道のり
第3章 「割安小型成長株」の破壊力
第4章 地獄の沙汰は持株次第──25年間の軌跡
第5章 REIT──落ちてくるナイフを2度つかむ
第6章 実践のハイライト──ロング
第7章 実践のハイライト──ショート・ペアートレード
第8章 やってはいけない投資
第9章 これからの日本株市場
感想
参考書ではなく自伝としても楽しめる
「はじめに」の1ページ目から、引退するに至った要因の一つとして、「最近も2銘柄で300億円ずつショートすれば100億円ずつ儲かっていたのに、申し訳程度のポジションしか取らず、それぞれ10億円に満たない程度しか儲けられなかった」といった旨が書かれています。ヘッジファンド運用に必要なエネルギーや貪欲さが失われてしまった証左だと。この時点で、前提としている規模の大きさに圧倒されました。
個人の立場から最後まで読み終えた感想としては、投資手法を参考にしたいと期待して読むよりも、第一線で活躍してきた投資家の自伝として読む方が面白いと思いました。
投資手法については、ファンド運用の経験を元にしたものではありますが、個人投資家のことも考えて語られているので、もちろん参考になります。ただ、たまに投資本を読む程度の素人には難しい部分もあったというのが正直なところです。
なので、投資初心者が具体的な投資手法を学びたいと思って読む本ではありませんが、プロの投資哲学を吸収しつつ、こういう世界もあるのだなという感覚で楽しむことはできる本です。ちなみに上級者の場合は、どんな角度からでも楽しめるのではないかと思います。
私は、この本の中で株式投資の楽しさも訴えていきたいと思っています。いろいろな会社を調べ、投資を行い、成功も失敗もありましたが、たくさんの出会いがあって基本楽しかったのです。
この本の内容は、株式投資の経験の浅い個人投資家の方にとっては少し難しいところもあるかもしれませんが、ぜひ株式投資について興味をもって学んでもらいたいと願っています。
清原達郎『わが投資術 市場は誰に微笑むか』p.7
常識を疑い、自分で考えて投資する姿勢
そんなことを言いつつ、自伝部分は実際に読んだ方が良いと思うので、参考になった部分を紹介します。
第1章の「市場はあなたを見捨てない」では、投資に対して持つべき考え方などが書かれています。
大多数の投資家と違う考えでいようと思うなら「常識を疑う」というのが一番楽な方法です。
清原達郎『わが投資術 市場は誰に微笑むか』p.22
コントラリアン(逆張り投資家)である清原さん。投資のアイディアを探す上での基本姿勢は常識を疑うことで、99.99%正しいと思えることでも100%正しいと思うことは有害だとしています。また、情報を見る時には、発信者のバイアスを考慮することが重要だとも。
投資はもちろんですが、その他の場面でも意識しておきたいことだと思いました。疑い過ぎる人生もどうだろうかという気はしますが、少なくともネット上に転がる情報のソース確認くらいは面倒がらずに行いたいところです…。
大勢と同じ考えやポジションを持っていると間違ったときに大損しやすく、少数派の考えやポジションであれば間違っても損失が少ない
清原達郎『わが投資術 市場は誰に微笑むか』p.18
この考え方は持っていなかったので、印象に残った一文です。
私は順張りを意識したいと考えていました。ただ、それは前向きな理由からではありません。逆張りというのは、なぜ株価が下がっているのか、上がると確信できる要因があるのかなど、ロジカルに考えなければならなず、雰囲気で入るのは危険だというイメージを持っていました。それに比べれば順張りは楽だろうという、非常に安直な思考です。
この本では、スクリーニングして引っかかった銘柄、投資のアイディアを元に探し出した銘柄を調査し、割安であれば購入するという手法が説明されていました。その銘柄が更に下げたとしても、購入判断に変更がなければ買い増すわけです。
おこがましい言い方になってしまっているかもしれませんが、自分の考えをしっかりと持って投資していればこういう結論に至れるのかと感じ入った次第です。143ページでも、「最初の銘柄選びの際に真剣に考える」ことが重要だとありました。
こうして読んでいる内に、清原さんの勧める割安小型成長株投資に、まんまと興味がわいてくるわけですね。
割安小型成長株への投資について
具体的な投資手法については、第3章の「「割安小型成長株」の破壊力」に詳しく書かれています。
見るべきは会社が赤字になろうがなるまいが同じ値段で売れる資産がどれほどあるかということです。それに会社が持っている現金を足して全負債を差っ引いた数字がキーなのです。それがネットキャッシュです。
清原達郎『わが投資術 市場は誰に微笑むか』p.102
私はネットキャッシュ比率をしっかり見ようとしたことがなかったので、新鮮な気持ちで読めました。割安銘柄の候補探しに使われていたそうです。ただ、この辺りは難しい話も多かったです。もう少し自分の頭で考えられるようになった時に再読して、改めて感想を言えるようになりたいところです。
そういえば、小型成長株と言われるとついグロース市場と繋げてしまうのですが、グロース市場はむしろ嫌っているとありました。146ページで、「中身が冴えない割には高PER銘柄が多く、最悪の市場」と言い切っています。こうした歯に衣着せぬ物言いが、この本の面白さの一つだと思います。
これだけは覚えておいてほしいというのが、以下の文章です。
「今の日本の長期金利を前提にすると、PERが10倍以下の株は総じて信じられないぐらい割安。長期金利(10年国債の利回り)が3%まで上昇してもまだ十分割安」だということを。
清原達郎『わが投資術 市場は誰に微笑むか』p.109
(追記)ちょうど本を読んだ後の3月19日に、マイナス金利政策の解除が発表されました。
まとめ
締めの第9章は「これからの日本株市場」として、清原さんの10年後の市場予想も載っています。「迫力のないつまらない予想でしょ?」とありましたが、至極妥当な予想だと思います。また、金利は大きく上がらない予想を前提にすると、円での運用は日本株式が有利ということで、少し安心しました。個人的に、外国株式は実感が伴わないところがやりづらくて…。
人間には快適に暮らしていくだけの収入が必要です。しかし、それ以上の幸福感を得るためには「なんでもいいから他人の役に立っている」という実感が必要なのではないでしょうか?
清原達郎『わが投資術 市場は誰に微笑むか』p.314
最後に、幸福感の話も少しされています。ここまでの実績を持つ人が言うと、やはり説得力が違いますね。ただ、ここを一般論として読むと、快適に暮らしていけるだけの収入を得ているという前提条件を満たす人が、一体どれだけいるのかという感じもします。
お金が幸福の全てとは考えませんし、お金がなくても幸福は感じられるかもしれませんが、お金があってこその幸福は間違いなく存在していると思っています。なので、一般庶民の私としては、投資を通じて快適に暮らしていけるだけの収入が得られるようになれば最高だなと思うわけです。その先の幸福については、私にはまだ遠い話かもしれません。