【感想】北田瑞絵『inubot回覧板』

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エッセイ

この本について

書誌情報

タイトルinubot回覧板
著者北田瑞絵
出版社扶桑社
発売日2019年8月8日
ページ数144

あらすじ

和歌山県の農家で暮らし、フォトグラファーでもある著者が、家族として共に過ごしている犬についての文章を綴ったフォトエッセイ。「ESSE online」のサイトで掲載された内容を加筆修正し、書き下ろしも加えたもの。豊富な犬の写真も魅力的。

感想

本を手にしたきっかけ

犬好きなので、犬系のSNSアカウントはよく見ている私。inubotのアカウントを知ったのはいつだったか定かではありませんが、出会うべくして出会ったと言っても良いでしょう。最初に見たのはみかん畑を駆け抜けている姿です。

畑を走る姿は度々投稿されています。

自然に囲まれた場所で、走ることを存分に満喫している犬を見てほっこり。かわいいなあと過去の投稿も遡って見ている中で、本を出されていることを知り、すわ一大事と販売情報を検索しにいったのでした。

日常の端々で感じる、いつかのお別れ

先程から犬、犬と言って名前を呼んでいませんが、それもそのはず。主役となるこちらの犬君は、名前が公開されていません。先代のエース君が亡くなって数年後の2014年、生まれて3か月のタイミングで著者の北田さん宅にやってきた犬君。柴犬の男の子です。当時の心境については、以下のように語られています。

ありがとう、うれしい、喜びが心から泉のようにわいてくるが、同時に大変なことだとも感じた。私たちはこの子に対して責任がある。これから何十年と続く生活に責任があるのだ。

北田瑞絵『inubot回覧板』p.15

本の文章の全体を通して感じるのは、いつか必ず来てしまう別れを日常の端々で意識されているということです。2代目の犬なので、余計にそう感じられるのではないかと想像します。

犬への想いは行き着く形を知らずに、日々深まっていく。昨夜よりも今朝の方が想いの深度が増している。そんな朝を迎える時、同時に、別れへの意識が強くなっていく。”生”について考える時間は”死”について考えている時間でもあるように。

北田瑞絵『inubot回覧板』p.6

本の中で一番刺さった文章です。想いが深まるにつれて、別れへの意識も強くなり、実際にその日は近付いてきてしまうという切なさ。まえがきには、犬の何気ない全てを覚えていたいといった趣旨の言葉もありました。だからこそ、北田さんの写真は日常をそのまま切り取ったような風景が多いのでしょう。

写真と言うと、文章に合う日常写真が各ページにたくさん散りばめられているのですが、他にもしっぽ、耳、手といった、犬君のパーツ写真の特集ページもあります。全部かわいいので、ぜひ実際にご覧ください。
敢えて1枚挙げるとするなら、44ページのクッションに乗っかられている犬君です。うちの愛犬もこうなっていたことがあったので、懐かしくて。

既に旅立った愛犬の若い頃は、スマホという文明の利器がなかったこともあり、残っている写真は顔をしっかりと写しているものが多いです。少し気合が入っているというか。もっと、なんでもない時の犬でもあらゆる角度から撮っておくことができれば良かったなと思います。全てを覚えておきたいと念じているのに、こぼれ落ちていることにすら自分で気付いていない記憶の欠片が、私の来し方には点々と転がっているような気がするので…。

犬は犬として、ありのままの犬を愛したい

北田さんの文章は、犬君の行動などに言及する時、基本的に見たままの様子を描写されています。先に紹介したXのアカウントも、文章ではなく画像や動画がメインです。それは以下にあるように、自分のフィルターを意識されてのことなのかなと思います。

目や表情、しっぽの動きなどから犬が今どんな気持ちでいるのかくむこともあるが、結局のところ受け手、私のフィルターを通すことになる。(中略)だから犬だけの気持ちを私が決めつけたりするのは、どこか犬の言動の幅を狭めているように思えてくるのだけれど、

北田瑞絵『inubot回覧板』p.34

28ページで、北田さんのお母様は「犬は犬として、家族やな」という考え方。北田さんは犬を子供のように感じることもあるので考え方が違うと書かれていました。ただ、私は本の文章から、犬は犬という意識も少なからずあるように受け取っていました。描写の仕方でそう感じたのかもしれません。

この本を読んで私が思ったのは、犬は犬として愛する、それで良いのだ、ということです。
犬を子供として、あるいはそれ以上の存在として溺愛している人は多いと思います。ふと、そういうものを見ることが、自分へのプレッシャーになってはいなかったかと感じました。犬を愛する時、どれだけ大きな存在として愛せるかが重要だ、というような。

60ページには「エゴ」という言葉も出てきました。犬のことを思って色々してやろうと思っても、それで犬が喜んでいるのか迷惑に感じているのか、本当のところはわかりません。満足気な態度を取っているように見えても、こちら側のエゴによるフィルターがかかっているせいかもしれません。

こうしたエゴの問題を考え始めるとキリがないですし、完全に無にすることは不可能です。
私の場合は、どうしてもどこか割り切れず、過度な感情移入をしている節があります。例えばテレビ番組で、犬の気持ちを人間の声で代弁するような演出はよくありますよね。あれはあれで好きなのですが、影響を受け過ぎたかもしれません。そして、中々治りそうもないのです。とりあえず、フィルターやエゴの存在は忘れずに意識することから始めたいです。

犬は犬として、それでも家族として、自分なりの大きさの愛で包んであげたいなと思います。

まとめ

共感できるところも豊富な内容でした。例えば、共通の話題ができるので家族が一致団結すること。それから、夏にプールを買うなどして季節を楽しむようになること。犬がいると大変なことも多いものですが、人生に彩りを添えてくれるどころか、彩りで塗り潰す勢いすら感じられるのが良いです。

私は本を読んで色々考えたわけですが、頭を空にして、犬君かわいいなあと癒やされながらページをめくっていく読み方もおすすめです。

余談ですが、私はKindleで購入しました。2023年の時点で、大手通販サイトの表示は軒並み在庫なし。メーカー取り寄せと表示されているところもあったので、一応地元の本屋さんに問い合わせたのですが、取り寄せできないという回答がありました。恐らく状況は変わっていないのではないかと思います。

実はこの本、ページの左下に小さな犬君の写真が載っていて、パラパラ漫画のようになっているのです。そして背表紙には犬君のかわいい顔写真付き。どう考えても紙で購入する方が良いのですが…。ただ、Kindleだとたまにセール対象品として価格が下がっていることもある、という利点はあります。

いつか続編が出版されて、その際にこの本もまた刷られないものかと期待しているところです。

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