【感想】パトリシア・B・マコーネル『犬と会話する方法』

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その他

この本について

書誌情報

タイトル犬と会話する方法 動物行動学が教える人と犬の幸せ
著者パトリシア・B・マコーネル
翻訳者村井理子
出版社慶應義塾大学出版会
発売日2024年3月11日
ページ数352

あらすじ

ドッグトレーナーで動物行動学者でもある著者が、これまでの訓練経験などを踏まえて、犬の行動はもちろん人間や類人猿などの行動についても語っている本。それらの共通点や差異を浮き彫りにしながら、どうすればお互いが幸せな家庭生活を送れるのかについて考えていく。
章立ては下記の通り。

第一章 猿まね
第二章 霊長類の言語を犬語に翻訳する
第三章 会話
第四章 匂いの惑星
第五章 楽しく遊びましょう
第六章 群れの友だち
第七章 支配的立場の真実
第八章 辛抱強い犬、賢い人間
第九章 犬の性格
第十章 愛と喪失

感想

原著の出版は20年以上前のこと

改めて公式の概要文を見てみると、「ベストセラーエッセイ」とあって驚きました。エッセイとは露ほども思わずに読み終えてしまった私です。言われてみれば確かに、学術書と言うには緩いと感じましたが…。それでも私の思うエッセイとは少し違ったので、この記事はエッセイではなくその他のカテゴリーに入れています。

原著は『The Other End of the Leash』。2002年に出版されています。20年以上前の本なのかと、ここでも驚きです。ただ、アメリカを舞台にした話ということもあってか、日本人読者としては古さを感じることなく読めました。メインとなる動物行動学の内容についても、20年の間に新たな発見などはあったかもしれませんが、根本的なところは変わっていないでしょうし。

ところでこの原著の表紙がかわいすぎるのでリンクを貼っておきます。思わず笑顔になってしまうチャーミングさがあります。

テーマは犬と人間とのコミュニケーション

こういった違いもあって、人間と犬は頻繁にコミュニケーションのやり方を間違えてしまい、それから導かれる結果は少し苛つくものから、生命を脅かすものまであります。

パトリシア・B・マコーネル『犬と会話する方法』p.5

タイトルの会話とは、要するにコミュニケーションのことです。

あらすじでも触れている通り、この本では犬だけでなく人間の行動傾向などについても詳しく語られます。スムーズなコミュニケーションを取りたいと願う相手のことを学ぶのはもちろん重要ですが、相手から自分はどう見えているのかを知ることも必要なのです。

本書は犬の訓練に関する本ではない。むしろ、私たち人間に向けて書かれた指南書である。

パトリシア・B・マコーネル『犬と会話する方法』p.336(訳者あとがき)

犬は人間のちょっとした動きすら察知しているにも関わらず、声や動きなどでやたらとシグナルを発している人間の方は、そのことをそれほど意識していないとのことです。それらも要因となって、コミュニケーションのすれ違いが発生します。

本の中では、犬を呼び寄せる方法やボールを持ってこさせる方法といった訓練的な話も紹介されていますが、全体からすると一部です。

著者の元に相談に訪れた犬や、著者が飼っている犬の実際の行動を振り返りながら、動物行動学的にはどう見るか、人間はどう考えて振る舞うべきか、そんな内容に紙幅が割かれています。

発達期の社会化、甘やかし過ぎる弊害

勉強になる箇所、興味深い箇所はあらゆるところにありましたが、ここでは何点かに絞って紹介します。

まず、犬の精神発達についてです。

第六章で、生後5~12週間の内に人間と接触していなければ、人間に対して通常の反応ができなくなるとありました。また、生後6~11か月も思春期の重要な発達期間なので、社会化の訓練などはしっかりと続けた方が良いそうです。

日本の動物愛護法では、生後56日を経過していない犬の展示や販売は禁止されています。(「8週齢規則」)これは母や兄弟犬から引き離されることによる社会化不足を防ぐためだそうですが、実際に56日を経過するまでの犬たちはどう過ごしているのでしょう。犬同士はともかく、人間との接触が十分なのか気になりました。

6~11か月の発達期間も、ペットショップにいる犬たちは満足な訓練を継続してもらえているとはあまり感じられません。そもそもペットショップに生後どの程度までの犬が展示されているのかよく知りませんが。

そうなると、犬を迎え入れるのであればなるべく早めにして、自らの手で様々な人間や犬と接触させてあげる機会を作るのが遠回りしない道なのかなと思いました。

ちなみにペットショップに関して、著者は否定的です。「パピーミル(子犬工場)」という最悪の環境から犬を仕入れるというシステムを問題視するだけではなく、展示の環境が発達の阻害に繋がる可能性もあると指摘しています。

それから、犬を甘やかすことについてです。

人間であれ、犬であれ、欲しい物を毎回必ず手に入れて育つと、フラストレーションへの耐性がない個体へと成長します。結局のところ、フラストレーションとは期待から導き出されるものなのです。

パトリシア・B・マコーネル『犬と会話する方法』p.239

著者も、世話をしたいという原始的な感情に抗ってノーを突き付けることは難しいと言っています。全く同感です。私の場合、おやつの要求は健康面を考えてある程度のところでノーが言えそうですが、撫でろという要求はほいほい聞いてしまいそうです。

ただ、24時間365日いつでもどこでも犬の要求に応えられるわけではありません。そんな人間の都合で、ある時はベタベタに甘やかして、ある時は忙しいからとあしらって…というのは、やはり犬がかわいそうです。犬は人間の都合を理解できないというか、する必要もないはずなので。
というわけで、特に犬の発達期においては、甘やかし過ぎないようにバランス良く付き合ってあげたいなと思いました。犬を飼う予定?ないです。

あと思ったのは、こういう時に家族間でズレがあると大変ですよね。NHKの『家族になろうよ』か何かの番組などを見ると、お父さんが甘やかしちゃってるパターンの多いこと。

この本の第一章でも、家族のそれぞれが同じメッセージについて違う動きを出すせいで、犬が混乱してしまう話がありました。そこの見直しについても、家族の誰か一人でも「適当にやればいいじゃん」と考えているようなら進まないわけで。

私が結婚相手に条件を付けるとするなら、犬に対して同じような温度感を持っていることを挙げたいと思います。

まとめ

翻訳書だし、動物行動学という学問的な話をすると言われているし、そこそこにページ数はあるし…と、正直言うと読む前は少し及び腰の状態でした。読み始めてみれば、案外すらすらと読めるものです。翻訳についても、たまに引っかかるところはありましたが、他と比べてそこまで読みにくくはないと思いました。

試し読みは下記ページからどうぞ。イントロダクションの一部が紹介されています。

人と犬、ひかれ合うのはなぜ?🐶  【試し読み】『犬と会話する方法』|慶應義塾大学出版会 Keio University Press

そうそう、第十章はタイトルから察せる通り、お別れについての話です。死による別れについても書かれていました。私は泣きながら読んだので、そういう話に弱い方は注意してください。

著者は、亡くなった犬の体を一晩安置したことで悲しみが癒やされたと語っています。しかし、数時間家に安置することさえ誰もができることではないとありました。ここは日本と感覚が違うような気がします。我が家の愛犬の旅立ちの時は、火葬場の空きの関係で、亡くなったその次の日も1日中家にいました。そういう事情などで安置することは日本では珍しくないように思っていたのですが、どうでしょうか。

改めて1日以上家に安置したことについて考えます。私はそこでひとしきり泣いて、悲しみに沈み切ることができました。火葬の場で涙を見せずにお別れできたのは、確かにそのお陰だったと思います。当時は何も語らない体だけが傍にあっても辛いという気持ちもありましたが、今となっては良かったです。

そんなお別れまでの日々をお互い幸せに過ごすために、この本を読んで犬との向き合い方をもう一度考えてみるのはいかがでしょう。

どの犬も特別です。そしてどの犬も、その性格が甘えん坊で、内気で、大胆で、そして生意気であろうと、自然な姿であることを許してくれる人間と暮らす価値があります。人間の場合と同じで、完璧に近い犬も存在するでしょうが、犬に完璧を求めるなんてフェアではないのです。

パトリシア・B・マコーネル『犬と会話する方法』p.298
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