【感想】岡崎雅子『寝ても覚めてもアザラシ救助隊』

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エッセイ

この本について

書誌情報

タイトル寝ても覚めてもアザラシ救助隊
著者岡崎雅子
出版社実業之日本社
発売日2022年6月2日
ページ数248

あらすじ

日本で唯一のアザラシ保護施設「オホーツクとっかりセンター」で働く著者が、そこで行われている保護活動や、アザラシの生態などを紹介するエッセイ。保護の実情を具体的に知ることができる上、人間との共生の課題や環境問題について考えるきっかけにもなる。
章立ては下記の通り。

第1章 私とアザラシとの出会い
第2章 いざ、北海道紋別市へ。アザラシ救助の日々
第3章 野生復帰に向けた訓練とリリース
第4章 アザラシ5種ととっかりセンターのアザラシたち

感想

本を手にしたきっかけ

Xでバズったこちらの投稿をご存知でしょうか。オランダのアザラシ保護施設「ピーテルブーレンアザラシセンター(日本語名)」に設置されたライブカメラの紹介です。「アザラシ幼稚園」として一気に知名度が広がりました。

私も早速見に行き、それからは暇さえあればかわいいアザラシたちをのんびり眺めさせてもらっています。卒園(回復した個体のリリース)配信ではうっかり目から汗が…。

気付けばXのおすすめ欄でもアザラシの写真や動画がよく流れてくるようになり、脳内が「アザラシかわいい!」で埋まりつつあったところで、この本に出会いました。

著者の岡崎さんは生粋のアザラシファン。幼少期からアザラシが大好きで、その熱意を保ち続けたまま現在は保護施設で働いています。こういう好きを極めた人の話は大抵面白いもので、第1章で語られる著者のこれまでの話も非常に興味深く読めました。

この第1章で、著者が大学6年生だった2009年にオランダのアザラシ保護施設を訪れたとありました。明言はされていませんが、上で紹介したアザラシ幼稚園のことと思われます。

その施設では、保護したアザラシは治療後すべて海へ帰しており、まるでアザラシの保育園のようだった。アザラシの幼獣がクルクル回りながら一緒に追いかけっこをしたり、みんなで集まってお昼寝したりする姿はとても可愛らしく、好奇心旺盛なアザラシの幼獣は、ガラス越しに私のところにも遊びに来てくれた。

岡崎雅子『寝ても覚めてもアザラシ救助隊』p.45(Kindle)

ここでも「保育園のよう」と言われていますね。幼稚園にしろ保育園にしろ、そういうかわいらしい例え方の効果は抜群だなと感じます。追いかけっこやお昼寝なんて言葉を添えられたらもうだめです。キュンとします。そんな様子が遠い日本から眺め尽くせるなんて、良い時代になりました。

保護とリリースを取り巻く事情

第2、3章では、オホーツクとっかりセンターで行われている具体的な活動について紹介されています。

ちなみにセンターは2種類の施設に分かれていて、「アザラシランド」では野生アザラシの保護や飼育、「シーパラダイス」では餌やり体験などのイベントが行われているそうです。本で言及されるのは、主にアザラシランドの方になります。

特に印象に残っているのは、リリースについて書かれた第3章です。

リリースが決まった個体は、人慣れしないように名前も付けられず、不必要な声掛けも行われません。その状態で補食などの訓練を受けつつ、海に帰ってもしばらくは問題のないように体重を増やし、様々な条件をクリアしてからいよいよ海へ放されます。

この辺りの具体的な流れを読んでいて、私にはここの飼育員は務まらないと感じました。恐らく保護した瞬間に情が移るので、自分にとってもアザラシにとっても不幸な結果を招きかねないと思うのです。リリース時の写真を見るだけで涙が出ます。ただ著者自身も「駄目だとわかっていても、結局、情は移ってしまう」と書いていたので、なんだかほっとしました。そして文章には表れない思いが色々とあるのだろうなと考えると、また涙が出そうになります。

なお、センターで保護されたアザラシは、全てがリリースの対象になるわけではありません。怪我を負って復帰が難しそうなアザラシなどは対象外ですし、諸事情でリリースを休止していた時期もあったようです。

そんなリリースを含めたセンターでの取り組みは、保護と一口に言っても実は簡単に割り切れるものではなく、そもそもアザラシを保護することは良いことなのか、保護したアザラシを野生に復帰させるのは正しいことなのか、著者は「まだ答えを出せていない。」とありました。

そこにはアザラシによる漁業被害や生態系の問題なども関わってくるということで、かわいいアザラシが弱っているのなら助けてあげたいという単純な考えしか持っていなかった私は、少々無責任だったと反省しています。

アザラシを愛していても、アザラシを取り巻く問題については将来も見据えて冷静に考えることのできる著者の姿勢を尊敬します。

まとめ

私の中でアザラシといえば水族館で会える存在という認識だったので、この本の内容はとにかく新鮮でした。また、アザラシかわいい!保護活動は良いこと!という考えにメスを入れられたのも良かったです。

最後の第4章の内容は、アザラシ5種それぞれの特徴の紹介、センターで暮らした印象的なアザラシたちの紹介になります。私はゴマフアザラシとワモンアザラシ2種の名前程度しか知らなかったので、種ごとに個性のあることがわかって面白かったです。

特に、性成熟したワモンアザラシのオスの顔。真っ黒+しわしわになるそうで、そんなアザラシは見たことがなかったなと思っていたら、先日偶然Xでワモンオスの動画が流れてきました。本当にしわが寄ってギュムッとした顔になっていて、なんとも味のあるかわいさでした。あの顔の再現フィギュアが欲しいです。

センターで暮らしたアザラシの紹介は、SNSなどの動画と合わせて見るとより楽しいですよ。

元々アザラシが好きな方はもちろん、アザラシ幼稚園からアザラシに興味を持った方などにもぜひおすすめしたい1冊です。

私にとって、とっかりセンターのアザラシたちは、仕事のパートナーで、親友で、家族のような存在である。彼らの魅力を存分に引き出し、お客様に伝えていくこと、アザラシの可愛さを伝えていくことこそが私たち飼育員の使命であり、彼らの仲間や生息環境を守ることにつながる、そしてとっかりセンターを支えてくださる地域の皆様への恩返しになると信じている。

岡崎雅子『寝ても覚めてもアザラシ救助隊』p.252(Kindle)
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