【感想】ハン・ジョンウォン『詩と散策』

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エッセイ

この本について

書誌情報

タイトル詩と散策
著者ハン・ジョンウォン
翻訳者橋本智保
出版社書肆侃侃房
発売日2023年2月6日
ページ数152

あらすじ

韓国に住む詩人のハン・ジョンウォンさんが、他人の詩を読んだり散策したりする日常の中で感じたことを綴ったエッセイ。本の帯などの紹介文にある通り、「雪の降る日や澄んだ明け方に、ひとり静かに読みたい珠玉の25編」。

感想

本を手にしたきっかけ

私がこの本を手に取ったのは、SNSで紹介されているのを見たからです。その内容は全く覚えていませんが、何かに惹かれてすぐに購入しました。にも関わらず、「異国の詩人が書いたエッセイで、紹介文も綺麗すぎるし、私にきちんと読めるだろうか」という不安から、約1年間本棚で待機させてしまいました。そして2024年の冬、この季節を逃すとまた後回しにしてしまうと思い、ようやくページを捲った次第です。

愛犬を思い出して共感した1編

最初の1編のタイトルは、『宇宙よりもっと大きな』。雪の降る冬を背景に、愛するものを失うことについて綴られています。この1編を読んで、私はつい涙してしまいました。感動というより、共感のためにです。この体験ができたというのもあって、読む前に感じていた「きちんと読めるだろうか」という不安をどこかへ押しやり、最後まで読み通すことができました。

ここで表現されている愛するものは人のことだと思いますが、私は勝手に犬に変換して読みました。旅立ってしまった私の愛犬。

私が存在するかぎり、私が失ったものも私とともに存在するという超越した時間にゆだねられた心は、やがて宇宙よりも大きくなる。そうやって大きくなった心は、もはや虚しくない。数万年前に死んだ星のように、心の中を埋め尽くして輝くものがあるからだ。

ハン・ジョンウォン『詩と散策』p.10

フェルナンド・ペソアの詩を受けての言葉です。
愛するものを失うことは悲しいし、悲しんでいても良いのだけれども、こう考えてみても良いかもしれないよと、優しく寄り添ってもらえたような気持ちになりました

それから、この部分を読みながら思い出したXのポストがあります。本に直接の関係はありませんが、私の中では繋がったので紹介させていただきます。

韓国出身アーティストのyeyeさんのポスト

愛犬を亡くした方の投稿です。こういう考え方も素敵だなと思ったのでよく覚えていたのです。

愛犬を失った私の悲しみの中には、どうしても忘れられない後悔が大きくあります。時間が少しずつ癒やしてくれているとはいえ、この悲しみが完全になくなることはないでしょうし、そうなってほしくもありません。そんな悲しみが、この本の言葉で、そして上記のポストで、まあるく包んでもらえたような気がしました。

愛するものを失った悲しみは人それぞれです。私はこういう読み方をしましたが、人それぞれで違う読み方ができると思います。色々な感想を読んでみたいところです。

水晶が澄むまでの過程を思う

訳者あとがきで、この本は「澄んだ水晶のようなエッセイ集」だと評されています。
確かに澄みわたる雰囲気はあるのですが、それだけ言うと、空想のような美しさが表現されているのだと感じられてしまうかもしれません。私は決してそうは思いません。

作品の中から垣間見える著者の過去には、私には想像もできないほど辛く苦しいこともあったのではないかと思います。そんな著者のフィルターを通した言葉で編まれた、現実に立脚した世界だからこそ、美しいと感じられるのではないでしょうか。

先の見出しの部分で、共感のために涙したと書きました。
本全体を読んで思ったのは、著者は大きな悲しみを抱えていながらも、希望を信じられる人なのだということです。

私はきっともう以前のように未来を楽観視したり、心を開いて人を愛することなんてできないだろう。どうしても最期や死を真っ先に考えてしまうだろう。でも、日陰にいながら陽だまりを眺める人、自分だけの陽だまりがあることを知っている人、陽だまりから離れてもぬくもりを信じる人にはなれそうな気がした。

ハン・ジョンウォン『詩と散策』p.81

そんな姿勢に共感するし、私もそうありたいと思うのです。
この本の中には、私にとっては多くの共感がありました。そして多くの優しさや希望に触れることもできました

まとめ

今回の記事では最初の1編を特に取り上げましたが、他にも幸せについて、老いについてなど、色々な角度のお話がありました。静かに思索に耽りたい、例えばそんな時にはピッタリのエッセイだと思います。

ちなみにあらすじの部分で書いた通り、「雪の降る日や澄んだ明け方に、」という公式の紹介文があります。確かにそのタイミングでも良いのですが、個人的には一人で静かに過ごせる夜もおすすめです。なぜかと言うと、少し泣いてしまっても大丈夫だから。

冬のイメージが強く打ち出されている本ですが、冬のお話ばかりではないので、時期にこだわりすぎず気持ちが乗った時に読んでみてはいかがでしょうか。

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