この本について
書誌情報
| タイトル | 優等生は探偵に向かない |
| 著者 | ホリー・ジャクソン |
| 翻訳者 | 服部京子 |
| 出版社 | 東京創元社 |
| 発売日 | 2022年7月20日 |
| ページ数 | 560 |
あらすじ
友人の兄ジェイミーが失踪し、高校生のピップは調査を依頼される。警察は事件性がないとして取り合ってくれず、ピップは仕方なく関係者にインタビューをはじめる。SNSのメッセージや写真などを追っていくことで明らかになっていく、失踪当日のジェイミーの行動。ピップの類い稀な推理で、単純に思えた事件の恐るべき真相が明らかに……。『自由研究には向かない殺人』待望の続編。この衝撃の結末を、どうか見逃さないでください!
感想
前作『自由研究には向かない殺人』のネタバレを含みます!
人間関係や世のあり方に苦悩する第二部
『自由研究には向かない殺人』に続く、シリーズ2作目です。そう、シリーズと聞いていたので、世界観は続いていても内容は一新されているというかここから読んでも問題なし的なものかと思っていたら、さにあらず。完全に前作の続きです。
共通の人物や舞台を使った第二弾というより、前作をそのまま利用した「第二部」といってもいいほどなのだ。小説が終わっても、登場人物たちの人生は続くというが、ここではまさに、「続いていた」というべきだ。(中略)もちろん、たとえ本書から読んだとしても問題ないように、作者はかなりのページを割き、過不足なく説明を行っている。ここから読んだとしても、一冊の優れた長編ミステリとして楽しむことが出来るだろう。
ホリー・ジャクソン『優等生は探偵に向かない』p.542(解説)
解説では前作を読まなくても楽しめるとありますが、ピップをはじめとする登場人物たちの心情や行動を理解するためにも、伏線回収の快感を味わうためにも、私は前作から続けて読むことを強く勧めます。ちなみに本文の1ページ目から前作の重要情報が開示されているので、読んでいない方は要注意です。
というわけで、ここからは前作の内容にも触れていきます。
まず全く本筋に関係ありませんが、1か月後パートが始まった途端にバーニーの話が出てきて泣きそうになりました。「音まで聞こえてくる。犬の爪が廊下をこする音が、帰宅した相棒を出迎えに駆けてくる音が。(p.29)」。相変わらず犬飼いに突き刺さる描写がお上手で…。
さて、前作は過去に起きた事件の再調査、本作は現在進行形と言えるかどうかも(作中人物視点では)わからない事件の調査を行います。再調査の時には自由研究と称して色々な人物へのインタビューができていましたが、ピップの名が広まった今となっては以前のようにガンガン突っ込んでいくインタビューは難しいのでは?と思っていました。そこをポッドキャスト配信で獲得したリスナー提供の情報でカバーしながら調査する形に変化させていたのは感心しました。
本作で印象的だったのは、ピップの心理描写です。あらすじの通り、ピップは「仕方なく」関係者にインタビューを始めます。そこに至るまでの葛藤や、調査中に起きる出来事への怒りや悲しみ、そして自分自身についての理解など、青春ミステリーらしいある種の痛々しさがはっきり表れていたように思います。そういうの大好き。前作は夏休みを楽しむシーンもあった一方で、本作はそういう余裕のあるシーンがほぼなく切羽詰まった空気が続くのも、ピップの精神面には良くなかったのだろうなと。メタ的に言えば、ピップを追い詰める意味でも失踪者捜索という主題はピッタリでしたね。
また、前作の感想では謎解きミステリー要素について微妙な書き方をしていましたが、本作はミステリーだと気負い過ぎずに読んだためか、捜索という内容からして流れに身を委ねやすかったためか、変に引っかかることもなく楽しめました。
間違いなく言えるのは、前作を読んで面白いと思ったなら速やかに本作を読むべきということです。記憶が薄れない内に!

【ネタバレあり】ミステリー部分について
一番盛り上がったのは、なりすましのレイラアカウントにピップとは無関係のアカウントからメッセージを送ったにも関わらず、すぐに「ハロー、ピップ」と返信が来たところです。ぞくっとしました。相手に一方的に行動を把握されている恐怖、最高です。
ただ、レイラの正体については消去法で察せてしまうのが少し残念でしたが。家を飛び出したピップとチャーリーが語り合ったシーンで「きみの四軒先のおとなりさんは信じてるよ(p.424)」なんて素敵な台詞が吐かれたことによって逆にこいつだろうと確信を深めていた私です。
話の流れ的にジェイミーは助かりそうだと思いつつ、生存状態でありながら戻ってこられない事情がよくわからなかったので、種明かしではなるほどなあと思いました。にしてもジェイミーは流石にネットリテラシー教育を受け直した方が良いです。あそこまで綺麗に手玉に取られるのはまず過ぎます。とはいえジェイミーだけでなく他の2人も短期間で恋に落ちていたのは…あのくらいの軽さで恋するのは今時普通なのですかね。私の感覚が時代遅れなだけ?謎です。
【ネタバレあり】物語の結末とピップの考える正義
「わたしたちがチャーリーをスタンリーのもとへ導いてしまったとも言える。なのにわたしたちは生きていて、彼は死んだ」
ホリー・ジャクソン『優等生は探偵に向かない』p.529
本作の結末は辛いものでした。前作で嫌な印象が強く残ったまま終わってしまったスタンリー。本作では序盤からシン家に真摯に謝罪していたことがわかり、またジェイミーの行方を調査するにあたって協力もしてくれて、本心はどうあれ案外きちんとしている人物なのかと思っていたところにアレですよ。サルを罵倒していたことにまで理由がついた途端に。
読者目線だと、スタンリーの語った過去に対する反省は本心なのだろうと思えますが、チャーリーがそれを信じられないのもよくわかります。ピップの「子供だった彼に責任はない」というのもその通りとはいえ、第三者だから言えることであって、目の前でスタンリーに姉を誘い出された彼がそれを認められないのはわかりますし、理屈としては理解していても許せない気持ちが残るのは当然でしょうし。…と、チャーリーの気持ちもわからないではないだけに辛いです。
考えさせられるのは、本作のスタンリーの謝罪や協力、そして最後の独白がなければ、チャーリーの言う正しさに多少は納得していたかもしれないことです。スタンリー本人の口から境遇などを聞いて同情したからこそ辛い結末だと感じるだけで、そうでなければ葬儀に乗り込んできたメアリーたちと同じような考え方をしていたとまではいかないにせよ、スタンリーに対してマイナスの感情を抱いたまま終わりだった可能性があります。それはピップも同じではないでしょうか。
他人にどう思われようと自分の正しさを貫くという姿勢自体は良いのですが、その正しさを他人に一方的に押し付けるのは違うと私は考えます。メアリーたちは、こちらからスタンリーの最期を詳しく説明するなりすれば多少は態度に変化があったかもしれないのに、そのステップをすっ飛ばして怒りに行くのは、何より自分もしんどいと思うのです。まあ実際は聞く耳を持ってくれなさそうですがね。
マックスの件にしても、まさか窓を片っ端から割ってペンキで落書きするなどいう暴挙に出るとは想像すらしていなかったので驚きました。犯罪行為は流石に擁護できません。しかも自分とわからないように隠れて行ったあたり、そこでの自分の正しさが社会的には通らないとわかっているわけですよね。顔を隠して攻撃して相手を勝たせないようにする自己満足の正義は正義と言えるのでしょうか。チャーリーの件を見た後なら、それは違うと思えそうなものですが…混乱中なのがなんとも。
そんなことを書いてきた私も、正直なところピップがアントに掴みかかった時は「そのままぶちのめせ!」と思い、メアリーの持っている看板を膝で割って投げつけたところも「いいぞ!」と思ったので、偉そうにはできません。この辺りは、葬儀の場でやんわり仲裁しようとしたヴィクターパパの余裕ある態度を見習いたいものです。というかピップもこの問題についてパパと話し合えば良いヒントを貰えそうなのにと思っています。弁護士なら正義について一家言ありそう(偏見)。
いずれにしろ完結編の次作ではピップの気持ちがすっきり晴れると良いですね。
【ネタバレあり】まとめ
最後に気になったところをまとめていきます。
まずはダニエル。前作では何かあるだろうと思っていたら見事に何もなかった彼ですが、本作では露骨に敵意をむき出しにしてきたので唖然としました。職務中は色々と割り切ってほしいですね。妹のナタリーは歓迎会で笑顔を見せてくれるまでになって良かったです。このナタリーの変化に引きずられてダニエルの態度も軟化することがあるのかどうかが気になっています。この兄妹の関係性が未だにはっきり見えないのでどうなるか全くわかりませんが。
歓迎会といえば、特に目立つこともなかったザックは参加してアントとローレンは不参加というのが…コナーが2人を招かなかったのは当然だと思いますが、もう仲良し6人組ではなくなるのでしょうか。私としてはアントのことを相当嫌いになっているのでこのままフェードアウトされても構いませんが、ピップたちの積み上げてきたであろう友情があんなことで崩れ去るのは悲しいなとも思うので、次作にほんのり期待です。
あとはやはりピップ本人のことですね。不安定なまま終わってしまったので心配です。最後の行動はチャイルド・ブラウンズウィックを探していたチャーリーとまさに同じなわけですが、自覚していたのかどうか。
ラヴィとの関係も良好そうではありながら、「わたしはこの人にふさわしくない(p.533)」なんて思い始めていますし。そういえばマックスの件は流れからしてラヴィに打ち明けたのだろうと思われますが、ラヴィはどういう反応をしたのでしょう。その後も関係性が変わっていないことからピップを受け入れる方にいったのはわかりますが、ラヴィはそれで良かったのでしょうか。ラヴィには相棒として意見するところはしてほしいというのが私の希望なのですが。序盤のバレンタインの話も一体どこに…。
それと本作もひき逃げ事件の話が出ていて、あれはピップのウィークポイントになるのではないかと前作から心配し続けています。被害者不明なのが特に気になります。本作ではジェイミーが殴った相手も出ませんでしたね。
というわけで、無事3作目も読まずにはいられない状態にさせられてしまったので、時間を空けずに読むつもりです。

