【感想】クァク・ミンジ『私の「結婚」について勝手に語らないでください。』

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エッセイ

この本について

書誌情報

タイトル私の「結婚」について勝手に語らないでください。
著者クァク・ミンジ
翻訳者清水知佐子
出版社亜紀書房
発売日2023年12月25日
ページ数248

あらすじ

韓国でエッセイストやコラムニスト、放送作家としても活躍する著者が、非婚主義者としての日常を綴ったエッセイ。非婚者は既婚者と同様に珍しい存在ではないことを知らしめるべく始めた、非婚ライフ可視化ポッドキャスト『ビホンセ』という番組は、累積聴取回数2,000万回超の人気を誇っているそう。そこからインタビューを受けたり本の執筆を依頼されたりするようになった著者の、悩みを抱えながら生きる人に対するエールが詰まった1冊。

感想

「非婚」と「未婚」という言葉への意識

先に私の立場を説明しておくと、現在独身で、結婚しないまま人生を駆け抜ける可能性も高い存在です。ただ、非婚主義者であると宣言するほどではありません。結婚をしてもしなくても、どちらでも良いと思っています。

そして、非婚と未婚という言葉の違いについて、深く考えようとしたことすらありませんでした。

既婚でなければ未婚という定義は、結婚していないすべての人が結婚したいけれど「できない」人扱いされることになる。だから、既婚者以外のすべての人を指す「未婚」の代わりとして「非婚」がより適切だという考えに同意する。

クァク・ミンジ『私の「結婚」について勝手に語らないでください。』p.229

本の中では最初から「非婚」という言葉が使われてきていて、特になんの引っ掛かりもなく読んでいたのですが、229ページという終盤に入って「未婚」という言葉が登場し、確かに普段接するのは未婚の方だ…と気付く始末。こういう鈍感具合は、ある意味では幸せに生きてこられたということでしょうか。

少数者の日常を多くの当事者が語れるように

本の全体的なテーマは「非婚」についてですが、話題は結婚に限らず、多岐にわたっています。

もっと多くの人たちが自分の話をしてくれたらいいなと思う。互いに対して礼儀を尽くすためには、私たちがどれだけ千差万別であるかを認識し、注意を払い続けるしかないと信じるからだ。

クァク・ミンジ『私の「結婚」について勝手に語らないでください。』p.18

非婚者に対する風当たりの強い社会で、非婚者としての日常を見せることで理解者を増やしていきたい、そんな姿勢が見えるようです。

本を読んでいくと、著者は確固たる信念を持った強い女性という印象を強める話が多く、やはり声を上げられるのはこういう女性なのだろうなと思ってしまったのですが、例えば『どうしてあなたが非婚をとやかく言うんですか』の章では、圧力を感じ、発信していくことに恐れを抱いた経験についても語られていました。それでも「語り続けていく人になりたい」と言い、今後慣れない誰かがマイクを握って話をしていればその勇気にエールを送りたいと言う著者を尊敬します。

こういう女性でなければ無理だと尻込みするのではなく、小さな声でも良いので自分の話をする人が増えれば、彼女のような存在の代表性が薄まって、圧力が弱まることにも繋がるのでしょう。これは非婚に限らない大切な話だと感じました。心にしっかり留めておきたい部分です。

非婚主義者が恋愛をするのはなぜ?

ところで私は本を読む前から、著者は恋愛もしていないのだろうと勝手に思い込んでいました。「非婚=非恋愛」という図式が頭にあったのです。しかし、読み進めるとすぐに恋人の話題が出てきたので驚きました。そして非婚主義者が恋愛をするのはなぜなのか、不思議に思いました。

実は、『非婚主義者のくせになぜ恋愛するのか』という章があります。ここを読めば私の疑問は綺麗に解消すると思ったのですが、そう上手くはいきませんでした。この章が書かれた発端は、既婚者による以下の発言です。

「非婚主義者という人たちは、ただ自分勝手なだけだ。非婚だ、未婚だって言いながら、恋愛はするんだから。人一倍寂しがり屋なくせに非婚だなんて」

クァク・ミンジ『私の「結婚」について勝手に語らないでください。』p.36

自分勝手、寂しがり屋というワードが入っているために、この章の内容もそこへの反論がメインとなっていて、なぜ恋愛するのかというところにあまり踏み込まないまま終わってしまうのです。私が聞きたいのはそこじゃなかったなあ、と。

そもそも、非婚主義者が恋愛することを不思議に思ったのはなぜだったのか、考えてみました。
恋愛における恋人同士というのは、お互いが共に存在する日常が心地良いと感じられるものだと思います。(著者は、「寂しさからはじめた恋愛は危険」と言っていましたが、私は寂しさ由来の恋愛でも別に良いと思います。)結婚はその延長線上にあるもので、恋愛から結婚に繋がるのは自然であるからこそ、恋愛をするなら非婚主義者になる必要はないのではないか。そういう思考過程だったのだろうと考察しました。
これは結婚に対して夢を見過ぎているでしょうか?恋人にしたい人と結婚したい人のタイプは違うという話も聞きます。恋愛と結婚はそこまで自然な繋がりではないのでしょうか?

非常に残念なことに、私はこれまでの人生で恋愛について真剣に向き合ったことがありません。恋愛を扱う本もあまり読んできませんでした。要するに解像度が低いのです。自分一人では首をひねるばかりなので、これについては多くの人の話を聞いてみたいと思いました。

ちなみに著者は別の章でこう語っています。

誰かにとっては結婚が安定だろうけど、私みたいな人間には自分ではコントロールできないリスク要素でもある。(中略)私の日常に結婚が入ってくる隙と理由がないことを身をもって実感しながら生きているだけだ。

クァク・ミンジ『私の「結婚」について勝手に語らないでください。』p.16

恋人という存在が日常に入り込むことは良いのか、例えば別居婚スタイルであれば自分の日常をそこまで崩さずに済むのではないか、そんなことを感じましたが、どうなのでしょうね。

まとめ

他にも、仕事などの人間関係に悩む人に読んでほしい『好きだから線を引いたんです』、犬好きとしては見逃せない『知らない犬と飛行機に乗った』など、興味深いお話がたくさん入っている本です。

先にも書いた通り、話題は結婚に限られません。だからこそ、日常の様々な場面から結婚について見つめ直すことができるようになっているとも感じます。

最後の訳者解説で、非婚でも結婚祝い金と同額の基本給と有給休暇が与えられる制度を整えた会社の存在や、結婚式の代わりとなる非婚式などが紹介されていました。日本でのそうした取り組みについては、私は聞いたことがありません。むしろ独身税についての方が、ネット上で言われているのを見かけることがあります。この本の中には、非婚主義者への差別意識を持った人も時折登場しますが、なんとなく独身税導入を主張する人とイメージが重なりました。

非婚であれ既婚であれなんであれ、個人の選んだ生き方を他人に好き勝手語られることのないような、そういう意味での多様性が認められる社会になると良いなと思います。
そのためにも、自分の自由な生き方を認め、他人の自由な生き方も認められる心を持ちたいです。もし生き方を見つめる上で疲れてしまうことがあっても、この本を読めば勇気を取り戻せると信じています。

最後に、著者の推しであるキム・イナさんの推薦コメントが素敵だったので引用します。

この本は非婚の話を装った、自分に責任を持って生きることについての話であり、熱烈な愛の扱い方についての案内書であり、人間の持つ無限の機能を思う存分生かした人生についてのアドベンチャーエッセイだ

クァク・ミンジ『私の「結婚」について勝手に語らないでください。』p.244
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