この本について
書誌情報
タイトル | 経営者の孤独。 |
著者 | 土門蘭 |
出版社 | ポプラ社 |
発売日 | 2019年7月11日 |
ページ数 | 407 |
あらすじ
会社のトップに立ち、責任やリスクを抱え、日々決断をしていかなければならない経営者。そんな経営者も一人の人間である以上は、孤独や寂しさを感じることもあるのではないか。経営者にとっての孤独とは何か。そんな問いを主軸にして、10人の経営者にインタビューした記事をまとめた本。
章立ては下記の通り。
1 鴎来堂・柳下恭平 ― プライベートとパブリックを分けられないことに僕の孤独がある。
2 クラシコム・青木耕平 ― 正気でいながら狂うこと。信用せずに信頼すること。
3 互助交通・中澤睦雄 ― だってしょうがない。ほかにハンドルを握る人がいないのだから。
インターミッション①「世界に触れる条件」
4 わざわざ・平田はる香 ― 寂しさはそこにあるもの。哀しみはいつか癒えるもの。孤独は逃れられないもの。
5 クラシコム・佐藤友子 ― 誰もが心の中にふたつの金庫を持っている。
6 L&Gグローバルビジネス・龍崎翔子 ― 翔子だったら世界一の経営者になれるよ。
7 ウツワ・ハヤカワ五味 ― それはあなたの中の「私」であって、本当の「私」じゃない。
インターミッション②「この世界に『主』として存在するわたしたち」
8 SCRAP・加藤隆生 ― 孤独と引き換えに、自分のアイデアを世の中へ送り出す。
9 矢代仁・矢代一 ― 「人の道」に戻れば、暗く悩むことはない。
10 CAMPFIRE・家入一真 ― 決して埋まらない自分の穴から生まれるもの。
感想
本を手にしたきっかけ
以前、土門さんのエッセイ『死ぬまで生きる日記』を読み、彼女の文章をもっと読んでみたいと著者名で検索した結果、この本に出合いました。
経営者のインタビューというだけではあまり興味がわかなかったと思いますが、そこに孤独が加わると話は別です。人生の中で孤独についてよく考えていた時期もあったような気がするし、こういう言い方は変かもしれませんが、今でも孤独は好きです。ただ、「それならあなたにとっての孤独とは何?」と聞かれても上手く答えられません。
だからこそ孤独について人が語った文章を読んでみたいと思いました。それに上記のエッセイを読んだ上で、土門さんならこういう話題にしっかり寄り添ってくれそうだなという信頼があったのもあります。
彼らが彼らの「孤独」について語るとき、わたしはわたしの「孤独」について考える。それは共感よりは共鳴に近く、だからこそそこで鳴る音は、ひとつひとつがすべて違う。
土門蘭『経営者の孤独。』p.7
その音を聞くと、わたしは思う。
「孤独なのは、わたしだけじゃないんだ」
人はひとりだけど、ひとりなのは一人ではない。
その逆説は、何の気休めにも慰めにもならない。だけどそれこそが、わたしにとって、自分のどこかに空いている穴を埋めるための欠かせないピースだったのだろうと今は思う。
ちなみにあらすじでは「インタビューした記事をまとめた本」と書きましたが、土門さんの感じたことがその合間合間で語られています。なので、全体を通して見ると、インタビュイーとの対話から土門さん自身が「自分のどこかに空いている穴」について考えていく作品でもあったように思います。
期待の仕方一つ取っても、考え方に芯がある
心に残る話の多かった章が4、5、7です。奇しくも全て女性なのは、やはり同性だからなのでしょうか。共通点を見出そうとしてなんとなく感じたのは、男性インタビュイーの語る社員の顔はぼんやりしている一方で、女性インタビュイーの語る社員の顔はもう少し具体的だったということです。会社の規模が偏っていただけかもしれませんが、女性インタビュイーの方が社員との関係が密なのかなと思いました。
どういうところが心に残ったかというと、例えば期待の話です。
5の佐藤さんは、「最初から期待しないほうが生きるのが楽だろうとは思って何度か試みたこともあったんですけど、上手くいかないんです。すぐに期待してしまう。(p.193)」タイプで、「本当は味わわないですんだ感情があったとしても、それを味わうことで、誰かを癒すようなサービスを作れたらいいんじゃないかって思ってしまうんです。(p.195)」と、期待することで傷付くことになったとしても、それも財産にしていきたいと語っていました。
一方7のハヤカワさんは、元々は期待するタイプだったけれども期待しないようになったそうです。
私は人に対して、(中略)「この人だったらいいようにしてくれるだろう」っていう期待はするけど、「こういうふうにしてくれるだろう」っていう具体的な期待は一切しないようにしているんです。そうすると、裏切られたとか落ち込んだとかいうことを、感じないんですよね。
土門蘭『経営者の孤独。』p.267
本の中では「信頼するけれど信用はしない」という方が何人かいました。個人的に、その感覚はわかるのです。それに比べて期待をするかしないかというのは難しいなと思いました。私は期待するタイプなのですが、恐らく無意識に期待しているので、期待しないようにするにはどうすれば良いのだろうと…。その方法が結局よくわからないので、ひとまず人との間に線を引いたりして。
その点、傷付くことをわかった上で期待したり、きちんと考えた上で期待しないように努めたりと、経営者の立場で人と関わらざるを得ない人の考え方は芯があってすごいなと思ったのでした。
孤独の形や向き合い方は十人十色
孤独については10の家入さんが語る心の穴の話が、やはり本の締めくくり部分でもあるせいか、最もしっくりきました。
家入 僕は多分、自分に空いている穴のことを認識できているんだろうなって思います。そしてその穴を大事にしている。
土門蘭『経営者の孤独。』p.392
(中略)
土門 孤独って、ありのままの心の形、なんでしょうか。それをそうなんだって受け入れることなのかな。
家入 そうかも。だから、孤独って決してネガティブじゃないって思うんですよね。
経営者は孤独だと答える方が多いながらも、孤独ではないと答える方もいました。そして孤独の捉え方も人によって様々でした。単なる状態であると言う方もいれば、他人と思いがすれ違った時に感じるものという意見に共感する方もいて、闇に吐いて捨てるものと言い切る方も。
改めて、私にとっての孤独とは何かと考えてみて、例えるなら親友かなと思います。たまーに喧嘩したり嫌になることがあったりしても、結局は近しいポジションに収まってしまう感じ。要するに、家入さんと同じく孤独に対してネガティブなイメージはほぼありません。もし世界から孤独の概念がなくなった時には絶望するかもしれません。
…と、ここでふと思いついて「孤独」で検索してみました。Wikipediaの1行目には、「孤独とは、精神的なよりどころとなる人や、心の通じあう人などがなく、さびしいこと。」とありました。この定義だと話はまた違ってきます。私の思う孤独とは、ただただ一人であることで、それ以上の意味を持ちません。念のため。
まとめ
経営者へのインタビューがメインでありながらビジネス書然としていないのは、語る内容がプライベート寄りなのが大きいでしょうか。なので、経営者あるいは経営者になりたいと思う人はもちろん興味を持って読めると思うのですが、孤独、信頼と信用、人への期待などの言葉にピンとくるような、人間関係の悩みを持つタイプの人が読んでも面白いのではないかと感じました。