【感想】三宅香帆『「好き」を言語化する技術』

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この本について

書誌情報

タイトル「好き」を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない
著者三宅香帆
出版社ディスカヴァー・トゥエンティワン
発売日2024年7月31日
ページ数264

あらすじ

書評家として活躍するかたわらでアイドルや宝塚を推している著者が、推しに関する言語化で悩んでいる人に向けて書いた文章術の本。SNSなどの短文、ブログなどの長文、友達に喋る、不特定多数の人に語るといった場面ごとの推し語り法が解説されている。
章立ては下記の通り。

第1章 推しを語ることは、自分の人生を語ること
第2章 推しを語る前の準備
第3章 推しの素晴らしさをしゃべる
第4章 推しの素晴らしさをSNSで発信する
第5章 推しの素晴らしさを文章に書く
第6章 推しの素晴らしさを書いた例文を読む
おまけ 推しの素晴らしさを語るためのQ&A

感想

本を手にしたきっかけ

SNSや掲示板などで、短いながらも他人の興味をそそるキャッチーで上手い文章をたまに目にします。往々にして、持ち出してくる具体例が的確でわかりやすい。語彙力どころか日本語の破綻すら問題にならないような、魅力的な文章。ああいう文章に憧れを持っている私です。

三宅香帆さんの名前は、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』という本がバズっていた時に知りました。読みたい読みたいと思いつつ、まだ手を出せていません。ただ、ここで名前を覚えていたので、新しい本の情報にすぐ反応できました。興味のあるテーマだし、ブログを書く上でのヒントにもなればと、こちらから先に読むことに。

先に書いた憧れの文章については、引き出しの多さとセンスが決まり手で、技術ではどうにもならない類の話だと思うので、この本を読んだからといって書けるようになるとは期待していなかったのですが。それでも自分の素直な感情をオリジナリティのある感想に昇華させる工夫など具体的な手法が紹介されていて、勉強になりました。

ちなみに言っておくと、テーマに挙がっているのはタイトルの通り「推し」です。著者は推しについてこう言っています。

「推し」という言葉の特徴は、「推薦したい」、つまりは誰かに薦めたいという感情が入っていること。単にこの対象を好きなだけじゃなくて「他人に紹介したい!」「魅力を言葉にしてその素晴らしさを分析したい!」という欲望を持つことが、推しの条件なのかもしれません。

三宅香帆『「好き」を言語化する技術』p.24

たまに思うのですが、「推し」の使い方が人によって微妙に違いませんか?古のオタクである私は、推しは好きの言い換え、現代の流行り言葉程度にしか捉えていなかったので、他人に薦めたいという意図をそこまで込めて使うことはありません。しかしそのスタンスで著者の推しの話を読んでいると、齟齬を感じるところがありました。

タイトルには「好き」とありますし、メインの言語化技術の部分では好きも推しも同じようなものなので問題なく読めますが、個人的に少し引っかかったところでした。

自分の感情に基づいた自分の言葉で表現する

個人的に一番インパクトがあったのはこちらの文章。

とくに「泣ける」と「考えさせられる」は、かなり要注意の言葉です。この2つの言葉を使うと、そこで思考停止になってしまいます。

三宅香帆『「好き」を言語化する技術』p.33

「考えさせられる」をまさに現在進行形で使っている私はドキッとしました。このブログ内で検索すると、現時点の公開24記事の中で5記事ヒットしました。

著者によると、人間は思考しなければありきたりな言葉を使ってしまう生き物なのだそうです。しかも今は、他人の感想や言葉がすぐ目に入ってしまう時代です。他人の言葉に影響されて自分でもそれを使ってしまうどころか、特にSNSでは内容すら他人の価値観に寄せにいってしまうのだとか。

違う場所から持ってきた言葉を組み上げても、自分の感情を正確には表現できません。更に、もし尖った考えを抱いていても、批判が怖いので外には出さないようにしてしまいがちです。その結果として出来上がった文章はどこかで見たような内容になり、どうすれば上手く言語化できるの?という状態になるのでしょう。

…痛いほどわかります。例えば先の「考えさせられる」なんて、昔の私は使っていなかったはずです。ネット上での感想投稿などを行う内に、どこかから拝借してきた言葉だと思います。使い勝手が良いので、いつしか困った時には頼りにしてしまうようになりました。

ただ、「考えさせられる」でまとめて終わり!ではなく、前後でその理由を具体的に添えておけばまだ良いのではないかと思うのですが、どうでしょう。

他人の価値観に寄せる話もそうです。どこでどう炎上するかわからない昨今、人と違う意見を表明するのは怖いですよね。私もつい無難な方向でまとめがちです。

著者が繰り返し言っているのは、一番大切なのは「自分だけの感情」だということです。本当は誰もが持っている自分だけの感情を、いかに他からの影響を受けずに、工夫して細かく表現できるか。そのための技術やコツが語られています。感想にする段階では、ひとまず人の目を意識し過ぎない方が良いのかもしれません。

手法に関する部分は本を実際に読んでもらうこととして、私がなるほどと思ったのは、感想を作る上では読解力や観察力と違う「妄想力(自分の考えを膨らませる力)」が大切になるという話でした。他人の感想を見る前に、まずは自分の感情を見つめ直して、自分なりの感想を練り上げる。その時には、しっかり頭を使って妄想もする。そんな流れですね。私はあまり妄想できていなかった気がするので、今後は考えを膨らませられるように発酵時間を取りたいと思います。

まとめ

なぜ感動を言語化するのかについて、著者はこう答えています。

自分の「好き」を言葉で保存しておく。すると、「好き」の言語化が溜まってゆく。それは気づけば、丸ごと自分の価値観や人生になっているはずです。

三宅香帆『「好き」を言語化する技術』p.61

好きは揺らぐもので、もしかすると好きではなくなることもあるかもしれない。そして、好きの感情そのものは保存が難しい。ただ、言葉にすれば感情も合わせて覚えておける。それが自分の人生の豊かさにも繋がる。そんな内容です。

この保存という言葉で思い出したのが、私の中学生時代。あるものに狂ったようにハマっていた時代がありました。それはもう熱い感情でいっぱいだったわけですが、一方で、こんなに大好きだと思い続けられる日が続くわけがないとも感じていました。そして、「この鮮やかな色の感情をそのまま保存して、好きな時に感じられたら良いのに」とよく考えていました。これもある意味、好きの言語化ですね。そう考えていたのを思い出すと、その頃の熱い感情も少しは思い出せる気がします。

正直、年を重ねた今となっては、何かにハマることも少なくなりました。悲しいかな、いつもどこかが冷静なので、狂ったようにハマるなんてことは二度とないと思います。となると、好きの感情だけで突き進むことができていた時代に、多くの言葉でそれを保存しておきたかったですね…。

この燃え滾る好きの感情をどこにぶつけたら良いのかわからない!と漲っている方は、言語化にエネルギーを使ってみてはいかがでしょうか。

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