【感想】アシュリー・ウォード『ウォード博士の驚異の「動物行動学入門」 動物のひみつ』

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この本について

書誌情報

タイトルウォード博士の驚異の「動物行動学入門」 動物のひみつ
著者アシュリー・ウォード
翻訳者夏目大
出版社ダイヤモンド社
発売日2024年3月26日
ページ数736

あらすじ

シドニー大学の動物行動学の教授である著者が、動物たちはお互いがどのように関わっているのか、その社会的行動を研究してわかったこと、まだ不思議に感じていることなどを紹介する本。哺乳類はもちろん、魚、鳥、昆虫などの幅広い生き物について、ユーモアを交えながら語られている。
章立ては下記の通り。

1章 氷と嵐の世界に棲む謎の生物
2章 シロアリはコロニーを守るために自爆する
3章 イトヨが決断するとき
4章 渡り鳥は「群衆の叡智」で空を飛ぶ
5章 ネズミ、都市の嫌われ者が私たちに生き方を教えてくれる
6章 家族の死を悼むゾウ
7章 ライオン、オオカミ、ハイエナが生き延びるための策
8章 クジラ、イルカ、シャチ、最も謎めいた動物
9章 類人猿の戦争と平和

感想

内容の面白さ+理解の捗る文章=最高

この本のページ数は736です。厚さを測ってみたところ、4.5cmほどありました。

某京極堂の「百鬼夜行シリーズ」で慣れているとはいえ、翻訳本でこのボリュームなので、いざ読む段階になると私も少し怯みました。ところが読み始めると、評判通り面白い。面白くてどんどんページを捲れる。結果、1週間もかからず読み切ることができました。

内容はもちろん素晴らしいのですが、それ以上に文章が良いからこそ、ここまですらすら読めたのだと思っています。訳者あとがきにも以下の言葉がありました。

本書も私のような一般人に実に読みやすく理解しやすく、なんというか無味乾燥でない「体温」を感じる文章で書かれていて頭にも心にも入ってきやすい。(中略)読者が一般の人だからといって手加減しているわけではなく、大事な情報は惜しみなく盛り込まれているが、決して堅苦しくなく、ユーモアのある文体で決して飽きさせることがない。

アシュリー・ウォード『ウォード博士の驚異の「動物行動学入門」 動物のひみつ』p.701

情報がただ淡々と羅列されているだけの内容ではなく、著者の嬉しかった経験や恐怖を感じた経験が盛り込まれている他、その動物について何も知らなくても動きまで想像できるような丁寧な描写もあり、非常にわかりやすかったです。

また、元の文章が良いというだけではなく、翻訳文が極めて自然なのもポイントです。翻訳の過程でどうしてもわかりにくい日本語になってしまい、読んでいる途中で引っかかってしまう翻訳文に出会うこともありますが、この本ではそういった引っかかりが一切ありませんでした。感動です。

仲間の死を理解する動物たち

読む前から気になっていたのは、帯で紹介されていて章のタイトルにもなっている「家族の死を悼むゾウ」の話です。本の中では、年老いた雌の象が死んでしまった後、家族や他の象が死を悼み敬意を表するかのような態度を取っていたエピソードが紹介されていました。

象という並外れた動物は、どうやら死とは何かを理解しているようなのだ。つまり、その逆の、生きているとはどういうことかも理解しているのだと思われる。

アシュリー・ウォード『ウォード博士の驚異の「動物行動学入門」 動物のひみつ』p.407

他に、例えば仲間が死ぬとしばらく狩りに出なくなることもあるオオカミ、死んだ仲間や周りの仲間を気遣う態度を見せるチンパンジーなど、象以外の話もありました。

死の概念を理解して、なおかつそれを悲しむかのような態度を見せるのは、個体を識別できるからこそなのかなと思います。彼らが死について理解しているはずがないと思い込んでいたわけでもないのですが、理解していると明確に意識してから改めて見ると、なんとなく印象が変わります。

これで、例えば密猟者に捕まっていつの間にかある個体が消えてしまったというような場合は、彼らはどういう理解をしているのでしょう。死に直面した時のような反応になるのか、それとも混乱する気持ちを抱えたまま時が過ぎていくのか。気になりますね。

あと象の章で特に印象的だったのは、母親に拒絶された子のエピソードです。精神的に傷付いた様子の子象は、それから5時間も泣き続けたのだとか。

象に人間と同じような感情があるのかどうか、科学的にはわからないと著者は言っています。それは理解していても、悲しんでいる様子の動物を見ると、つい人間の尺度で悲しみを共有しているような気持ちになってしまいます。そして、この子象が今は元気にしているといいなと願ってしまうのです。

科学者すら嫌悪する種もある昆虫たち

あらすじに書いた通り、この本では動物以外の生き物についても紹介されています。

例えば、字面を見るだけでも嫌という人がいそうなゴキブリ。(字を小さくしてみました。)意外に思ったのは、科学者である著者ですら、姿を見ただけで嫌悪感を露わにしてしまうらしいことです。それなら私が嫌ってしまうのも仕方がないと思えました。あと、私はアリも嫌いですが、社会性昆虫としてのシロアリについてもしっかり紙幅が割かれています。

そういうわけで虫に関する章は顔を若干顰めつつ読んだのですが、正直に言うと、面白かったです。普段からそういう話を見聞きしてこなかったので、初めて知るような情報が盛りだくさんで、新鮮な気持ちになれました。

バッタの大集団の話なんて歴史SLG辺りでしか見たことのない私なので、(「ああ、イナゴだ…」)現実的な解決策が存在していないと書いてあったのには驚きました。確かに考えてみれば、前触れもなくいきなり大集団で飛んでこられると、現代であってもどうしようもなさそうです。通常はほとんど害のないバッタが、災厄レベルの大集団と化すメカニズムも興味深かったです。

まとめ

本の中では、環境の問題や動物たちの将来について語られている部分もしばしば出てきます。

例えば象は、生息できる土地が減った結果、農地の作物を狙うこともあるそうです。となると、いくら象は保護すべきという考えがあったとしても、実際に生活のかかっている農業従事者はそんなことを言っている場合ではなくなります。

先進国のしかも都市に住んでいる人間は簡単にそういう人たちを非難しがちだが、他人の立場になってものを考えることも大切だ。地元の人たちの協力がなければ、動物の保護のためにどれほどの努力をしても無駄になるので、これは非常に重要な問題である。

アシュリー・ウォード『ウォード博士の驚異の「動物行動学入門」 動物のひみつ』p.384

引用文の「そういう人たち」は、生活のために象を犠牲にすることもやむを得ないと考える人たちを指しています。この著者の言葉は当たり前のように聞こえますが、何かにつけて思い出すべき重要なことだなと思います。私はここで、熊を駆除したことで秋田県などに方々からクレームが入った話(2023年)を思い浮かべていました。

動物たちの生育環境をいかにして守っていくのか考えることは大切ですが、それを優先し過ぎて人間を無視することのないような態度を保っていきたいですね。

最後に、Amazonの商品ページでも紹介されているポストを載せておきます。

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