【感想】アンソニー・ホロヴィッツ『カササギ殺人事件<上・下>』【ネタバレ注意】

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小説

この本について

書誌情報

タイトルカササギ殺人事件<上>
著者アンソニー・ホロヴィッツ
翻訳者山田蘭
出版社東京創元社
発売日2018年9月28日
ページ数368
タイトルカササギ殺人事件<下>
著者アンソニー・ホロヴィッツ
翻訳者山田蘭
出版社東京創元社
発売日2018年9月28日
ページ数384

週刊文春ミステリーベスト10 海外部門 / このミステリーがすごい! 海外編 / 本格ミステリ・ベスト10 海外編 / ミステリが読みたい! 海外編 / 本屋大賞 翻訳小説部門 / 翻訳ミステリー大賞 / 翻訳ミステリー読者賞 と、各種ランキングで1位を獲得した作品。

あらすじ

カササギ殺人事件<上>

現代ミステリの最高峰が贈る、すべてのミステリファンへの最高のプレゼント!
1955年7月、パイ屋敷の家政婦の葬儀がしめやかにおこなわれた。鍵のかかった屋敷の階段の下で倒れていた彼女は、掃除機のコードに足を引っかけたのか、あるいは……。その死は小さな村の人々へ徐々に波紋を広げていく。燃やされた肖像画、消えた毒薬、謎の訪問者、そして第二の死。病を抱えた名探偵アティカス・ピュントの推理は――。現代ミステリのトップ・ランナーによる、巨匠クリスティへの愛に満ちた完璧なオマージュ作品!

次に下巻のあらすじも載せていますが、初見で全てを楽しみ尽くしたい場合は読まない方が良いと思います。ご注意を。

カササギ殺人事件<下>

名探偵アティカス・ピュント・シリーズ最新刊『カササギ殺人事件』の原稿を結末部分まで読み進めた編集者のわたしは激怒する。こんなに腹立たしいことってある? 著者は何を考えているの? 著者に連絡がとれずに憤りを募らせるわたしを待っていたのは、予想だにしない事態だった――。現代ミステリの最高峰が贈る、すべてのミステリファンへの最高のプレゼント! 夢中になって読むこと間違いなし、これがミステリの面白さの原点!

感想

古典好きならハマる「懐かしき時代の殺人事件」

上巻は、編集者が『カササギ殺人事件』の原稿を読み始めようとするシーンから始まり、『カササギ殺人事件』の内容がそのまま載せられています。
(これ以降『カササギ殺人事件』と表記する場合は、この原稿を指します。)

『カササギ殺人事件』は、1955年のイングランドという舞台設定や、登場人物たちの振る舞いに加えて、その物語の構成自体にクリスティらしさを感じました。登場人物それぞれの状況や思惑が描かれ、不穏な空気をたっぷりと醸し出したところで、とうとう導火線に火が点く…そういう感じ。クリスティ作品関連の単語がたまに見つかるのも面白かったです。ただ、クリスティ作品を読んだことがなくても問題なく楽しめる作品なので、ご安心ください。

私は古典ミステリーが好きなので、『カササギ殺人事件』も簡単に好きになれました。解説では「懐かしき時代の殺人事件」と言われていました。まさにそれが好きです。同じような嗜好を持つ人なら、楽しめるだろうと思います。

【ネタバレあり】下巻に関する所感あれこれ

私はこの作品が作中作の体裁を取っていることを事前にどこかで聞いて知っていました。なので、下巻を開いても特に驚きはありませんでした。

この点は、上巻の最初の数ページを読んで察せる人もいると思いますし、なんならWikipediaの冒頭でも説明されています。ただ、作品の特徴が作中作の構造にこそあると考えると、これはネタバレになってしまうのでしょうか? よくわからなかったので、ネタバレなしのところで触れるのはやめました。

作中作であることを知らずに読み進めていたら良い意味で驚けたのかどうかは、なんとも判断しかねます。

既に書いた通り、上巻の『カササギ殺人事件』は好きです。一方、下巻の内容となるアラン・コンウェイの話はいまひとつという感じでした。

下巻の主人公は、編集者のスーザン。原稿の結末部分を探す内に、作者であるアランの事故死に疑念を抱き、関係者たちに話を聞いて回って真相を解明するという流れです。

まず読者目線だと、ミステリー作品なのだからアランも事故死ではないのだろうなとメタ読みしてしまうわけですが、作中の人物であるスーザンにそんな考えを持つことはできません。結果、事故なのか殺人なのかスーザン自身が確信を持てないままに行動している様子を追うことになり、こちらもなんだか乗り切れない、中途半端な気分のままで最後の方まで進んでしまいました。

そもそもスーザンはミステリー好きとはいえ一介の編集者に過ぎません。そんな彼女の探偵ぶりを見せられても…という気分も拭えず。

スーザンで印象に残っているのは、アランの元妻・メリッサに会ったシーンです。再会直後には魅力的だと評していたのに、彼氏の元カノだとわかった途端に「魅力のない女性だ」と考え始めているのです。この間わずか5ページほど。芸術的とも言える手のひら返しで面白かったのですが、探偵役を担う主人公としてはどうかなと思いました。

下巻がいまひとつだと感じた最大の理由は、作中作の『カササギ殺人事件』とほぼリンクしていないところです。

『カササギ殺人事件』の登場人物の他、町や建物などの名前は、アランの周辺に実在しているものから取り入れられていました。また、アランの遺書は手書きなのに表書きはタイプで打たれていたり、アランの葬儀の途中で立ち去った男がいたりと、『カササギ殺人事件』内の描写と共通する出来事が発生することもありました。

そうした要素がちらほらあったので、現実と作中作がリンクして、一方がもう一方の真相解明を助ける展開になることを期待したわけです。内容が更に複雑になっていたかもしれませんが、読後の満足度は非常に高くなったと思います。しかし残念ながら、先にも書いた通り、その辺りが特にリンクしているということはありませんでした。アランが作品に暗号を隠していたなどという話も、正直大したものではなかったですし。

リンクさせないならこの作中作構造に意味があるのかどうか疑問です。

それと、アランの人物像が最後までよく見えてこなかったのにも消化不良感があります。とにかく嫌な奴であることはわかりました。嫌な奴で、それ以上でもそれ以下でもないということなのかもしれませんが、もう少し何かないのかと。その点、オマージュ先のクリスティ作品は人物描写が巧みだったなと改めて思います。

下巻は300ページ近く読んでこれか、という感じです。もう少しコンパクトにまとめられていたらまだ良かったかもしれません。

最後には『カササギ殺人事件』の見つかった結末部分が載せられています。やはり現代パートなしのアティカス・ピュント作品として読みたかったです。それだと、ここまで話題にならなかったのでしょうが…。

【ネタバレあり】まとめ

振り返ってみて、やはり下巻にもう少し工夫があればと思わずにはいられません。作中作と何かしらリンクする要素が欲しかったです。

下巻の内容について色々書いてしまいましたが、私が作中作の体裁を取っている作品であることを事前に知っていたのも良くなかったかもしれません。知らなければ新鮮な驚きを楽しめて、そこで高く評価した可能性もあります。(そういう驚きを歓迎していたレビューをいくつか見かけたので。)

また、上巻の『カササギ殺人事件』は好きだと書きましたが、ミステリーとして傑作かと言われると、正直頷きかねます。冗長というか、結局は無関係な情報の多過ぎる点が、マイナス要因の一つです。

それと上巻を読んでいる時にずっと気になっていたことがあります。首ってそう簡単にスパーンと落とせるものですか? 私は流石に無理だろうと思いながらも、作中で誰もそこに突っ込んでくれないので、取り残されたような気持ちを味わっていました。首を切り落とす必然性も特になかったようですし、背中を切り付けるくらいにしておいた方が良いのではないかと、編集者気取りで考えていたところです。

全体を通して満足はしたものの、更に面白くできたのではないかと思える意味で不満が残る。一言でまとめると、そんな感想になります。

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